第6章 我愛羅さま
ーーお見合い当日ーー
長机を2つ並べて、白い布を机の上にかける。その上に淡いピンク色の薔薇を飾り、おしぼりをセットする。
氷が入ったお茶や、紅茶、コーヒーなどのドリンクが入ったピッチャーを用意して、透き通るガラスコップを置いていく。
おもてなしの下準備をしながら、私は嘆息を漏らしていた。
昨夜は、一睡も眠れていない。
この日を迎え、こんなにも気落ちするとは、自分でも思わなかった。
私は、3年ほど前から、我愛羅さまの秘書として、勤務している。
歳は先日、25歳になったばかり。
我愛羅さまは、28歳で10年以上、5代目風影として里を治められている。
三年前まで、テマリ様が秘書を務められていた。
結婚され、妊娠を期に秘書を退かれた。その後を引き継いだのが、この私だった。
ただ運や推薦で選ばれたわけではない。勉学や修行に励み、ひたすら志願して、漸く勝ち取ったポジション。
我愛羅さまのお役に立ちたい、その一心のみで私は秘書を今まで務めてきた。
やっと最近、自分の仕事に自信が持てるようになり、気持ちに余裕が出てきた時。
我愛羅さまのお役に立ち、心を開いてお話が出来るようになってきた、そんなある日。
我愛羅さまが、お見合いをしてしまう。もしかしたら結婚してしまうかもしれない。
3年間お側にいたが、恋愛の「れ」の字も出てこない。お仕事をずっと熱心に取り組んでこられていたから、「結婚などご興味が無い」と私は勝手に思い込んでいた。
その我愛羅さまが、まさかのお見合い。もう目の前が真っ暗になっている。