第5章 シカマル 少甘
変な妄想を一瞬しちまったオレは、顔が赤くなるのを懸命に抑えた。
このみは、自分で言ったくせに、何でちょっと照れ笑いしてんだよ。
「あ、シカマル、信じてない?いいんだよ?何でも。ジュースとかお菓子とか、何でも!」
盤に駒を進める音と共にオレを見る。
「…………んなことだと思った。ーーったく」
その声に肩を震わせて笑い出す。
「……ぜっったい変な想像したーー!」
「してねーーよ、めんどくせーーな!」
オレが上ずった声を出しちまえば、更にお腹を抱えて笑ってるし。
「…………次、このみの番」
「ごめん、シカマル……!……………」
ーーお、さすがに手が止まるよな……。
オレは口角を上げた。
勝負になると目がマジになる。そこがこのみの良い所だ。どんなに茶化して喋ってても、将棋になると目を光らす。
オレと張り合う勝負が出来るヤツは、同期じゃこのみだけだからな。
いつも飽きねェし、おもしれーー。
「…………」
煽りは今入れたくねェ。どんな戦略をこのみが練るのか、しっかり見極めてェからな。
つーか、50通りぐらい考えたが、ここに気づかれなければ、オレの勝ちだ。
さぁ、どう出るんだ、花奏は。
「シカマル、舐めちゃ困るよ」
ぴしりと着手する色白の肌が目に入り、駒を綺麗に真っ直ぐに置いた。
「…………やるな。やっぱ…、気づくか」
唸りながら声を出した。
「さぁ、今度は、シカマルがピンチね」
「……そう簡単にはいかねーよ、これは想定の範囲内だからな」
盤に駒を指し、次々と着手すれば終盤に差し掛かかる。
遂に手が止まったのは、オレの方だった。
ーーくそ、追い詰められちまったな……