第25章 五条悟 告白の後悔
「だーかーらー歌姫先輩に頼んだらいいじゃん。こっちに来てたよね」
花奏の言い方はつっけんどんだ。歌姫先輩のほうが喜ぶはずだ。
なんなら風邪を忘れてスキップして玄関に向かうだろう。
「んー、歌姫先輩も任務みたい。バカでも風邪ひくんだって笑って話してたよ。歌姫先輩なりに心配してたね」
「歌姫先輩は優しいねー泣けるわ」
花奏をじっと見つめたあと、硝子は「はい」と薬袋を渡した。恐ろしい。有無を言わさない物腰は昔からだ。
「シノゴの言わずに花奏が家まで行ってあげな」
「……◯×△!!」
言葉にならない声で、胸に押しつけられた袋を受け取った。ひぃ。中身は解熱剤やら抗生剤。術式反転でけろりと元気になるんでしょう?無限下を解いた方が悪い。
「……はぁ」
なぜ行かなきゃならぬのだ。塩を撒きたいぐらいなのに。あんな意地悪な男は、たまには病気して寝込んで大人しく寝てたらいい。
悪態をつきながら花奏は街を歩いて高層マンション前に立った。セキュリティ万全のタワーマンションが眼前にそびえ立つ。
「ひぇっ」
高そうだ。顔もいいのに金もある。なんてやつだ。重苦しい動作で部屋番号を押してチャイムを鳴らした。
しばらくすると、インターホンから声が出た。正確には、咳が耳に入ったから花奏が先にしゃべった。
「大丈夫? 薬持ってきたよ」
「あー開けるわ」
五条悟の声が掠れて聞き取りにくい。よほど体調が悪いようだ。扉が自動で開く。絨毯の廊下を歩きエレベーターに乗った。扉が閉まり、エレベーターは上へ動き出す。
「やだなぁ…」
トラウマ並の黒歴史から、もう10年が経った。花奏と最強の五条悟は28歳。
お互い縁がなく、独身生活を謳歌してきた。花奏の場合、一般男性とお付き合いしても3ヶ月が限界だった。
本気で思う。
一生結婚とは無縁かも。と。
エレベーターが10階に着く。扉が開いて花奏は通路を歩いた。確か角部屋だ。
はぁ…と、ため息が漏れた。花奏は億劫だった。
たぶん。嫌味を大量にいわれて茶化されて嫌な気持ちになって帰るのだ。想像するだけで、ほとほと憂鬱になった。