第25章 五条悟 告白の後悔
「なんで私が!」
呪術高専の診療所に呼び出された花奏の身体はわなわなと震える。座る丸椅子がガタガタ揺れた。診療机には薬と書いた紙袋。五条悟の名前を見て血の気が引いた。
「風邪ひいて大変なんだって」
タバコをキュッと灰皿に押しつけて、フゥっと煙をはいた。幼馴染でベビースモーカーの家入硝子は足を組んだ。
黒歴史から10年。なにかと絡む五条悟を花奏は毛嫌いしていた。
「伊地知いわく、熱も出てるらしいな」
「そんなバカな」
「悟のことだから大したことないと思うんだけど。アイツの家に行きたくないし。花奏は仲良しじゃん」
「ちがう! あたしは関わりたくないんだって!」
家入硝子は知らない。五条悟に告白したことを。玉砕したことを。黒歴史を!
はたから見れば仲良しにみえる。実際は逆なのだ。
花奏本人は会うたびに根掘り葉掘り恥辱をほじくり回され続けた。後悔の黒歴史の青春時代。おぞましい過去だ。
花奏は……本当に嫌だった。
ここ最近は特に。
苛々する日々を送る。
昔以上に、必要以上に五条悟が花奏をからんでくるのだ。
本人は嫌がっているのに、肩や手に触れる回数が多い。必ず話しかけてきた。
五条悟自身の行動が
よくわからないのだ。
つい前日の話だ。歌姫先輩が「アンタがいるから助かる」と電話でいわれた。
最初は意味不明だった。
あとから花奏が五条悟の防波堤になるから助かるという意味だと理解した。まったくのお断りだ。
もっぱらな噂だ。五条悟は前々から可愛い歌姫先輩に片想い中のようだ。
さっさと告白してフラれたらいいのに、と花奏は悪態を頭でついた。
歌姫先輩が五条悟に優しくないから、花奏に八つ当たりしているのかもしれない。
そう推測するだけで
頭に血がのぼった。
なんて許しまじき男だ。思わず花奏は歯軋りを鳴らした。