第20章 隠岐くん(ワールドトリガー)
「ごめん……。じゃ、じゃあね。隠岐くん」
早く、この場から逃げたい。
消えてなくなりたい。
離れようとしたのに
とっさに私は腕を掴まれた。
「花奏ちゃん」
雨音が強くなる。隠岐くんの優しい声が私の耳に飛び込む。
「今日の花奏ちゃん、メッチャ可愛い。惚れ直すぐらい可愛い」
「っ!!……なに、急に……」
顔を見た。
目を細めて嬉しそうに、
にっこり笑ってる。
わからない。いま泣きそう。
「アハハ、花奏ちゃん、アカン、顔真っ赤やん。どうしたん?」
「っ!ち、ちがうし、ちがう!」
顔が赤いと指摘されて、余計に顔が熱くなり、手を顔に当てた。熱い。真っ赤かも。
「隠岐くん……」
並んでまた歩いた。
腕が離れた。
その手が離れたことが……
寂しいと思う。
触れて欲しいと願ってる。
雨音が
BGMに聴こえる。
「ん?どないしたん?」
優しい声が聞こえる。
私はなぜか、
突然
言いたくなった。
「あのね……好きなの、隠岐くんが」
心臓が飛び出しそう。
なんでいま言っちゃったんだろう。
「…………ご、ごめん、急に」
早くなんか言って。
顔が見れない。
沈黙が恐い。
ぎゅっと傘の取手を握った。
「知ってる」
顔を上げた。
隠岐くんの目が笑う。意地悪な顔で。
「っ!〜〜やっぱり訂正!ウソ!」
ちがう。なによ、イジわる。
「えー、おれもメッチャ好きやのに。残念やな」
「っえっ!うそ、ほんと?」
「ホンマホンマ」
もう……軽いなあ。
「花奏ちゃん、雨酷くなってきたし、おいでよ、オレん家。ここから近いねん」
「でも、急だと……家族さんに悪いし」
「いいって。今日夜までおらんし、あ、猫好き?オレの家な、猫おるねん」
「猫?」
ちょっと見たい。雨が降る音が強くなる。パシャパシャ、雨が地面に叩きつける。
「うん、メッチャ可愛いで。おいでや。な?」
「う、うん、わかった。ありがとう」
私がはにかんで笑うと、
隠岐くんも笑顔だった。