第20章 隠岐くん(ワールドトリガー)
地面に当たる雨の音を聞いて歩いた。ポツポツ傘に雨が当たる。
今さら気づく。
もう……遅いのに。
「花奏ちゃん、待ってや、早いわ」
パシャパシャ、と足音が近づく。振り返ると隠岐くんが傘をさして走ってきた。
「っ!隠岐くん!?」
わたしは頬に伝う涙を拭いて、隠岐くんの方を向いた。
え?
「なんで先に帰るん。いっつも、帰る道一緒や言うて、帰ってるやん」
黒い傘を持った隠岐くん。ハァハァと息切れしてる。肩を揺らす隠岐くん。
私は驚く。すぐに声がでない。
「ああ、ごめんね? 隠岐くん、雨取さんと話の途中だったし……邪魔しちゃ悪いなって思って……」
大丈夫。
泣いてたなんて、バレない。
「そんなん気にせんでいいって。次から言うてや」
「うん……。あ、今日は残念だったね」
さっき言ってたっけ。
「かわいい」から撃てなかったって。
「あーせやねん。悔しいな。次は勝つしな。雨取ちゃん、可愛いし、ちっちゃいくせに、メッチャ強いねん」
「うん、凄かったよね。でも惜しかったよね。また次だね。頑張ってね」
傘にポツポツ雨音が当たる。
隠岐くんが私を見つめた。
「花奏ちゃん……なんか冷たい」
「っ!?つ、冷たくなんか……普通だよ、普通!」
なんなの?
「あ、私さ、買い物しようと思うから、ここでバイバイするね」
ダメだ。
涙があふれる。
上を向けない。
「……あー……そうや髪切ったんや」
隠岐くんが、
あっけらかんと、普通に言った。
「え、ああ、うん、そうなんだ。あはは、変だよね。ばっさり切ったんだ……」
心臓に悪い。
心音が外に聞こえそう。