第20章 隠岐くん(ワールドトリガー)
Bランク戦。最後にイコさんが残ったけれど、生駒隊は負けてしまった。隠岐くんは、雨取さんとやりあったけれど、最後は空閑くんにやられた。
終わって席を立つ。帰ろうと思ったけれど、「お疲れ様」と言いたくて、隠岐くんを探した。
いつも私がランク戦をするとき、隠岐くんは観に来てくれる。
アレが良かったよ、コレが次の課題だね、とか、いろいろアドバイスをくれる隠岐くん。
同じ狙撃手で、ためになるアドバイスをくれる。優しくて笑顔がキラキラしてるの。
私は。
もしかしたら……
たぶん勘違いしていたのかも。
少しは自分に対して
好意を持ってくれていると。
「あ、隠岐くん……」
廊下で話す後ろ姿を見つけた。黒い髪でふわふわ。バイザーをつけて黒い服を着て、誰か数人で喋っているみたい。女の子……雨取さんだ。
「いやいや、かわいい子は打ちにくいって話ですわ。な、雨取ちゃん」
「いえいえ」
「いや、ほんまやって…おれ、ひとりっ子なもんで」
「なんだそりゃ」
顔は見えない。後頭部しか、見えない。声で分かる。笑ってる。
「雨取ちゃん、妹みたいでかわいいし、反則ですって」
アハハとみんなの笑い声が聞こえる。
カワイイ。ハンソク。
わたしは声をかけるのを
やめた。
くるりと反転して、
出口へ向かう廊下を歩く。
ランク戦が終わったあとだ。話の邪魔を……しちゃいけない。
「……バイバイ」
微かな声。
エレベーターの中に入り、1階ボタンを押した。静かに扉が閉まる。
下るエレベーターの中で外を見た。
ガラスに映る私の顔は冴えない。
直視出来なくて目を閉じた。
1階につくと扉が開く。
玄関口へと向かった。
雨音が聞こえる。
ザァァァ……
雨が、
いつのまにか降っていた。
はあ。
ため息がこぼれる。
折り畳み傘をカバンから取り出して、パンッと傘を広げ、家路へと向かった。
風が冷たく体に当たる。
雨粒も服に当たって冷たい。
大きなため息が出る。
次からは……今後は……
あまり期待しないように
しなきゃ。
「かわいい」って会うたびに隠岐くんに言われるから、その気になっていた。
バカだなあ。
こんな、しょうもない理由で、
涙が出るなんて。