第20章 隠岐くん(ワールドトリガー)
「おはよーさん、花奏ちゃん」
隠岐くんが手をあげた。
「お、おはよう、隠岐くん」
「あ、イコさん。ちょい今日のランク戦の話あるんですけど、いいすか?」
隠岐くんは、真面目な顔つきで、イコさんへ駆け寄る。イコさんに数枚の書類を渡した。
「ん?いいで。ほな作戦しよか。みんな作戦室入ってや」
そう声をかけて、イコさんと隠岐くんは、先に作戦室の中に入ってしまった。
「ほな、頑張ってくるわ、花奏ちゃん」
「頑張るわ、花奏ちゃん」
「あ、はい。頑張ってください」
手をバイバイとふり、カイくんと水上さん、そしてマリオさんは中に入った。私は1人ぽつんと取り残されて。
いや、ちがう。
これから映像を観に行く。ランク戦の応援をするつもりで、今日来たのだから。
私は1人実況中継室へ
歩き出した。
……いつもは
隠岐くんは私を見て「かわいい」と言ってくれる。普段の私を見て、「かわいい」と言ってくれるんだよ、隠岐くんは。
今日はちがうけれど。
いつもは……かわいいって言ってくれるの。目を狐にさせて、笑ってくれるの。
まあ。
お世辞だって。
知ってる。
私だけじゃない。みんなに「かわいい」と言うことも、もちろん知ってる。
不思議なことに、変哲のない、普通の私にも、どういうわけか、「かわいい」と言ってくれる。
「ウソばっかり」と
いつも流しているけれど……。
本当は、嬉しかったの。
「かわいい」と私の髪型を見て、
笑って話しかけてくれる隠岐くんに、
私は会いたかったようだ。
たった一言でいい。
「かわいい」
と、言って欲しかったな。
今日は
大事なランク戦がある。
なにを考えてんの。
私の髪型なんか、
どうだっていいってば。
自嘲した。