第18章 続き★サソリさん
「ああ、そうかよ」
サソリさんは窓に顔を向ける。
なによ、人が愛を伝えたのに、そっぽ向いちゃって。あーひどい。
こんなホテルみたいなお店を、いつ予約したのだろうか。 支払いもすでに終わっていた。
「サソリさん、どうし」
私が聞こうと口を開いたときだ。
忙しない足跡が近づいてくる。
小さな男の子が廊下を走り、その後ろから、お母さんらしき人が追いかけていた。
「コラ! ダメよ、危ない!」
声を荒げ、
男の子の肩を掴んだ。
途端に、水が溢れる音がした。私たちの机の上が、途端に水浸しに変わる。
カラカラカラ……。空のコップが丸いテーブルに転がり、無音な空気が漂う。
「…………あ、ケーキ……」
赤いナフキンも、ケーキも無残なお姿に。お茶が皿の上に水たまりを作った。なんと悲惨な…。
だが、良かった。私のデザートは8割以上完食していた。ギリギリセーフである。
服も濡れてない。不幸中の幸いだ。
胸を撫で下ろし、
「サソリさ……」
視線を上げて
サソリさんを見た。
私の背筋は凍りつく。
目の前に座るサソリさん。
頭からお茶をかぶって濡れていた。
「………チッ」
ポタポタ……と、
紅い髪から滴が垂れ落ちる。
変装した任服もシミが広がり、濡れて滲んだ。
ひぃ。
黒く禍々しいオーラが
サソリさんから見えそうだ。
「……サ、サソリさ…ん」
怒らないで……ダメだよ?
ぜったい、ダメだよ?
内心ハラハラしながら、ポケットからハンカチを、サソリさんに差し出した。
「いらねえ」
私の手を突っぱねた。滴が紅髪から垂れ落ちる。髪をかきあげ、視線を転んだ男の子に向けた。
「…………ぅわぁあ!!」
同時に、床で泣き叫ぶ男の子の声。床に寝転び、うつ伏せで号泣状態。
「コ、コラ! すみません……」
お母さんらしき人が、サソリさんに頭を下げて、男の子を立ちあげようと腕を伸ばした。
「"ァ"アァ"!!!」
全然言うことを聞かない。感情的に泣き叫び暴れ出し、駄々っ子みたいに手がつけれない状態に変わる。
サソリさんは、先ほどから、男の子を黙って眺めている。腕で額をぬぐい、無言で席を立った。