第16章 ワールドトリガー 風間さん
「おーおー、不満そうなツラだな」
諏訪さんが言う。
「……いや、納得いかないっていうか」
はっきり言おう。不満だ。
「大丈夫だって、なんか起こったら、ちゃんと助けてやるから」
「起こっちゃマズいんですよ。前回を忘れたんですか?
事件は未然に防いでくださいよ」
「自分のじゃんけんの、運の無さを恨むんだな」
運・は・か・ん・け・い・な・い・よ・ね・☆
ズルだよね。年上の大人だよね。
こんにゃろう。
諏訪さんは煙草を吹かしながら、
シッシッと、犬か猫が寄るのを追い返すように、手を動かす。
く、くそぅ……諏訪さんめ……
「戻れ戻れ。ダーリンが待ってんぞ」
「ダ、ダーリンじゃ」
息を吐いた。落ち着け。普段どおり、普段ってどんなだ。とにかく粗相がないように、努めればいいのだ。
もとの席にゆっくりと、畳みの上を、
みしみし と音を立てて歩く。
わたしの歩く姿を、Aランク1位、太刀川慶さんが、ニヤニヤして見る。
「なんすか、太刀川さん」
「いや、おもしれーもん、見れそうだなあって思って」
未来視ができる迅さんが
吹き出して、口もと手で押さえる。
「…わ、悪い、 何もない」
なにか見えたよね? 教えてよ。
と言っても言わない男だ。
嵐山さんは、
なぜか、手をグーにして
応援する。
キラキラ目が、頑張れって言ってる。
加古望さんは肩を震わせる。
「かわいいで、花奏ちゃん」
ズッコケそうになった。
生駒隊のイコさんだ。
唯我は目を合わせない。
未成年組は、こっちを見ない。
明後日の方向を見る。
く、くそぅ……
みんな笑いやがって。
逃げやがって。
知らぬふりしやがって。
もとの席につき、おとなりである
風間さんに愛想笑いをした。
「長かったな」
「お、お化粧直しに……」
ちらりと、
風間さんのグラスを見た。
待て待て待て。すでに2杯目のビールジョッキが、空になってるではないか。
近くにいた店員さんに声をかけて、ビール追加を即座にお願いした。
頼む。わたしは新人なんだ。お手柔らかに、ペースはゆっくりで、
お願いします。
今日はどうか、
神さま、仏様、女神さま、
すべての神さま、
安全に、無事に、
飲み会が終わりますように。
目をつむり、両手で祈る。
前回を思い出すだけで
鳥肌が立つ。