第2章 運命の花びら
「あ・・・」
もし声がここへ届いていたら、そう呟いたと思わせる形に小さく唇を開いている。
そして多分、今、私も同じ表情をしていると思う。
身体の芯に電気を流されたかのように、私はホームの最前列から離れ、ふらふらと彼の居るホームへ足を進めた。階段を上がり、コンコースへ。
その時、向こう側から彼が歩いて来た。
しっかりした足取りで、明らかに私の方へ向かって歩いて来る。
周囲のざわめきをかき消す程に私の耳を支配する大きな音が、私自身の胸の鼓動だと気付く頃には、もう目の前に彼が立っていた。
通り過ぎる人混みが妙に遠く感じ、映画のワンシーンみたいだ。
まるで久しぶりに再会した恋人の様に自然と手と手が触れる。
はたから見れば、さっき目が合っただけの関係とは見えない程に。
「・・・待っててくれたんだ」
静かに彼が口を開いた。
ふいに何故か懐かしいという気持ちが沸き上がる。
勿論初めて会った仲に、待っていたも何もない。
なのに。
運命的な予感が私から離れない。
「・・・多分、きっと貴方に会うの、待ってました」
私の口から出た言葉は、彼の言葉を受け止めていた。
「不思議な気分だ。君とは初めて会った気がしない」
「私も、です」
「会いたかった、ずっと」
彼の手が私の顎に触れ、続いて彼の唇が眼前に迫る。
そっと目を閉じ、受け入れる。
花びらの様に優しく淡い口付け。
はらりと唇から離れたその感覚に目を開けると、彼が優しく微笑んでいた。