第1章 IF:【冬春】エース救済・主人公生存
包帯の巻かれた小さな掌がエースの頬を包み込む。自分とは全く似ていない、ガーゼで覆われているが、整った顔が至近距離でエースを見つめる。久しく呼ばれていなかった名前を呼ばれ、エースは体が硬直した。声色は、遠く昔の記憶のまま。耳に優しく、じんわりと心が温まる、大好きだった姉の声。
自分とは違う優しげな目元が歪んだ。一瞬で瞳は水の幕が張り、今にも涙が溢れそうなほど。
「いきてる……」
雀斑をなぞるように、愛おしげに姉は弟に触れる。たくさん聞きたいことがあったのに、聞かなくてもその行為だけで答えは出てしまった。エースは、心底姉から愛されていると、確かにこの瞬間わかってしまった。
姉の目から零れ落ちた涙がエースの顔を濡らす。姉の泣き顔は、流石に初めて見た。頭の何処かでぼんやりとそんなことを思った。
その後検診に来たドクターに見つかったは怒鳴られながら丁寧に病室まで戻された。包帯を巻きなおし、しばらくしてまたエースが病室を訪れた。今は居心地悪そうにベッド横の椅子に座っている。
あぁ、そういえば私はエースに対して酷い事ばかりしてきたんだった。心が冷めていく気がした。姉として、最低屑女だった己をは呪った。
起きてすぐ、知らない天井に混乱したがすぐさま正気を取り戻し、エースがどうなったのか、いても経ってもいられず病室を飛び出した。身体中が痛んでいることなど御構い無しに。エースは生きていた。包帯越しに触れる温度は暖かい。常人より少し熱いくらいだった。
「なんで、助けてくれたんだ…」
消え入りそうな小さな声でエースが尋ねてきた。視線は合わない。ずっと昔に殺した、優しい姉の私が顔を出す。
「エースが、生きていてくれればそれで良かったの」
「……」
「海賊になろうが、海兵になろうが、関係なくて…生きてればそれで良い。私は海兵だったけど、エースのお姉ちゃんだから」
「……なんで、俺をひとりにした」
「海兵になって、エースの生きやすい世の中にしたかった。突き放したのは、もし私に何かあった時、エース1人でも生きていけるように」
今はすっかり、たくさんの家族に囲まれている。