第2章 ハートのピエロクルー【サボ】
どんどん顔色の悪くなるをサボは無理やり抱き込んだ。抵抗することなく、はされるがままだ。メラメラの実を食べたらしいサボの体温は、人より少し高い。
嫌われたくない、その言葉がサボの胸を締め付けた。国が滅び、逃げた某国の姫。サボには考えられないほど辛いことがあったに違いない。
サボはの手配書を何度も見ていた。『狂人の』。ピエロのメイクをしていたってわかる。その瞳は仄暗く。癒えない傷を負っていた。サボの知らない間に傷ついた、治ることのないの心の傷。
自分が記憶をなくしている間、彼女が生きていたのが唯一の救いだった。
「絶対に、何があっても、を嫌いになることなんてない」
「そんなの、」
「不安になるなら誓う。俺の気持ちは、ずっと昔から変わらねぇ」
「サボくん、好き…ずっと、大好き」
「俺も、をずっと愛してる」
背中に回ったの手に、昔を思い出すサボ。
幼い頃、ゴア王国に、サボの家へと訪れた。何度も許嫁として会っていた。いずれ結婚する少女。彼女には最初から好感が持てていた。
家が息苦しいものだと認識し始めてしばらく、の言葉がサボを救った。
『家に、居たくないんだ』
『…どうして?』
『息がしづらい…苦しいんだ、逃げ出したくなる…』
『じゃあ、私がサボくんの居場所になるよ。サボくんが苦しくないように、私が助けてあげる』
ふくふくしたまだ幼い手が背中に回り、優しくサボを包み込んだ。居心地の良い、手放したくない存在になった。あの時から、ずっと彼女だけだった。彼女だけをサボの心を締め付け、温め、離さない。
の伸びた金髪を耳にかけ、視線を合わせる。綺麗になったに小さく胸が鳴った。自然と伏せられた瞼に、しっかりと手入れされた綺麗な額、頰に唇を落とす。
ほんのり赤く染まった頰が愛おしい。吸い寄せられるように何も塗られていない唇に自分のものを押し付けた。
月光に照らされた金色が、丘の上で2つ、煌めいていた。