第1章 一寸先の、宝物のお話
探偵社から少し歩いた場所に停めてあった黒の車。
その車の鍵を中也が開けると子供達のテンションが上がった。
「ぼく、ぱぱのとなりにすわりたい!」
「だから、まえにすわっちゃだめ!」
グイグイ引っ張っていく子供達に、終始、狼狽える太宰。
「わ、わかったから一寸落ち着き給えっ!」
「「はやくはやくー!」」
そう云うと修治が先に乗り込み、次いで太宰と文也が乗車する。
それを見届けた後に中也が運転席に乗り込んだ。
「太宰、チビ達のシートベルト」
「チャイルドシートじゃないのかい?」
「修治が身体弱いから圧迫するのは避けてンだよ」
「っ!」
「文也も修治が座らないならって、絶対云うこと聞かなくてな」
「……そう」
エンジンをかけ、車を発進させながら質問に答えた中也の言葉に太宰が少し黙りこんだ。
「修治、文也。飯は何にするか決めたかー?」
「「かにくりーむころっけ!」」
「お前達はそればっかだな」
「だって、ままがなんでもいいっていったもん!」
「こないだのおいしかったからぱぱとたべたいもん!」
「あーあー分かった分かった。大人しく座ってろ」
中也がそう云うと「やったー!」とはしゃぐ修治と文也。
「ぱぱは、かにさんすきー?」
修治が太宰を見上げて云う。話し掛けられたことでハッとした太宰が慌てて笑顔をつくって答える。
「好きだよ」
「ほんと!?ぼくといっしょー!」
矢張り自分にとても良く似ているなと思いながら、嬉しそうに笑って云う修治の頭を撫でた。
先刻から「ぱぱ」と呼ばれていることを、当たり前のように受け入れている自分と葛藤しながら太宰は前を向いた。
「中也」
「あ?」
「……紬は」
このままでは駄目だ、と。
決意を込めた言葉。
マフィアを抜けてからずっと音信不通であり、
最近になって、やっと和解した片割れ。
四年という長い間に起きた自分の知らない世界を知らなければならない……
否、識りたいのだ。
これから共に歩むためには絶対に知っておかなければならない過去を。
バックミラー越しにみる、普段では考えられないほど真剣な顔をした太宰の発言の意図を正しく理解した中也はフッと笑った。