第1章 一寸先の、宝物のお話
「「………ぱぱ?」」
発した言葉と目を擦る動作を同じタイミングで行いながら、子供達は中也を見上げた。
「おう。良い子にしてたか?修治、文也」
中也の存在をハッキリと認識した瞬間に覚醒したのだろう。
「「うんっ!」」
ぱぱ!と嬉しそうに大きく頷くと「あのねっあのねっ!」と今日の出来事を話そうとする。
「話は飯食いながら聞くから帰るぞ。ほら、世話になった人達に挨拶しろ」
「「はーい!」」
中也が二人を降ろすと、ペコリと頭を下げて「「おじゃましました!」」と元気よく云った。
その光景に国木田が「太宰の子供とは思えないほど善い子だ」と感涙し、敦達は笑顔で手を振った。
「ンじゃ帰るぞ」
そう云って入口の方へ歩きだした中也の後ろをトコトコと追い掛けた二人は同時にピタッと止まって振り返った。
「「ぱぱーはやくー!」」
「………え。」
ここまで置いてきぼりになっていた太宰に、子供達が声を掛ける。
その様子に、中也は正面を向いたまま小さく笑った。
そして、何時も通りの太宰に接する表情をつくって振り返る。
「きょうはおそとでごはんたべるってぱぱがいってたよ!」
「ぼく、もうおなかペコペコだよ!」
ガシッ!と中也が何か云う前に、子供達が太宰の手を片方ずつ握って引っ張った。
「………えっと。」
困惑する状況に、太宰が中也の方をみやる。
「もう定時過ぎてンだろ?早く支度しろ。チビ達の寝るのが遅くなンだろーが」
「あ…うん」
太宰は二人の手をそっと離して椅子に掛けていた外套を羽織る。
それを大人しく待った修治と文也は、太宰がそれ以外にすることがないことに気が付くと再び手を握った。
「世話になったな」
「「ばいばーい!」」
空いている手を振って、笑顔でそう云うと四人は探偵社を去っていった。
急に静かになる探偵社。
「……彼の子達、中原さんのこともパパって呼んでましたね」
「一体、如何いうことでしょう?」
勿論、話題はその疑問で盛り上がる。
ああだこうだ意見が飛び交うも纏まらず、全員の注目が饅頭を半分ほど食べ終わった乱歩に向いた。
「彼の子達は嘘は云っていない」
「それって…!」
それだけ云って新しい饅頭を食べ始めた乱歩は、誰が問おうともそれ以上語ることはなかった。