第4章 一寸混ざった、世界のお話
「何だよ。知ってたのか」
まあ、連中が呼んでたもんなァ、等と中也が考えていると
「矢張り、変わってないようだね」
狐は中也に聞こえない程度の小声でポソリと呟いた。
酒も良い感じに回り始めた頃ーーー
中也は、初めてというワインをいたく気に入ったように飲み続けている狐に対して疑問を口にした。
「そういや、手間の名前は?」
「教えなーい」
「チッ」
自分は聞いておいて名乗らない事には何か理由があることに気付いている中也は派手に舌打ちして見せた。
その光景にケラケラと笑う狐。
「何時まで居座る心算だよ。お望みの名前はもう教えただろーが」
「それはあの人間達を助けた分だろう?浄化の分が未だだねえ」
「……人の酒飲んでンじゃねえか」
「じゃあ、それで一人分だ。二人助けてあげたなー」
「………何が望みだよ」
本日何回目か判らない質問を狐に繰り出す中也。
狐はその言葉を待ってました、と云わんばかりにニンマリと目を細めて嗤った。
嫌な予感がするーーー
ほろ酔いだった筈なのに、一気に酔いが醒めて背筋に冷や汗が伝った。
そして、その通りに嫌な予感は、的中する。
「君が私の姿を見て浮かべた、嫌いな人に会いたいのだよね」
ヒト一人の命を助けて貰った事と較べれば、難しくはない条件。
しかし、会いたくもない敵対組織に所属する元相棒の顔が浮かんで、中也は顔をひきつらせたのだった。