第4章 一寸混ざった、世界のお話
「疲れた……」
中也は首領の言葉通り、残っていた仕事を軽くこなして直ぐに帰宅した。
先ずは風呂だな、と用意し、ゆっくりと体を伸ばす。
「妖怪……ねェ」
自分だけにしか見えない存在などこの世にあるわけ無いと思っていた。
そもそも、そのような存在が白昼堂々、行動するものなのだろうか。
風呂から上がり、髪を拭きながらワインセラーに向かう。
「本当に狐につままれたのかもなァ」
「うふふ。漸く狸はやめたのだね」
「うるせェな。最初から狐ってことは判っ……はあ!?」
バッと、行き良いよく背後を振り返える。
「やあ」
「…」
何もなかった筈に空間に、消えたと思っていた『狸』が立っていたのだった。
ーーー
「これ、美味しいね。果実酒かい?」
「ワインは初めて飲むのかよ」
「わいん?洒落た名前だね」
いつの間にか、一緒に酒盛りを始める流れになった一人と一匹(?)。
初めて飲むワインが余程お気に召したのか、尻尾がゆらゆらと揺れている。
「……。」
その尻尾を見て、中也はそっと手を伸ばした。
モフモフ、フカフカ
思った以上の手触りに、一寸驚く。
「うふふ。フワフワで触り心地善いだろう??」
「ああ。すげぇ良い手触り………本物なんだな」
「疑っていたのかい??」
「否。でも俄には信じらんねェもんだろ」
「そうだねぇ。ヒトとの交流は『あの日』以来無いからねえ」
「…『あの日』?」
遠い目をして苦笑する狸、基、九尾の狐はワインを飲むことを再開した。
深くは聞きまいと、中也もそれ以上、その話しはしなかった。
「んで?何で付いてきやがった?」
「うん?」
ツマミのナッツを「この木の実も美味しい」等と感動しながら首をかしげると、
「後で名前を聞くって云ったじゃあないか」
その理由をあっさり述べた。
あー、確かに云ってたわ、と納得する中也。
そして
「中原『中也』だ」
次こそ、躊躇いなく自分の名前を口にする。
「…?何だ、今の……」
そして、直ぐに感じた違和感。
『中也』の名を口にした音が、自分の口からでたとは思えない、何かの違和感が重なったような気がしたのだ。
その違和感を、説明しろと云われても難しい微かな違和感。
「……矢張り『中也』、か」
目の前の狐は、その名を口にして苦笑していた。