第1章 一寸先の、宝物のお話
「「ぱぱーみてー!」」
それから程なくして嬉しそうに絵を紙を持って太宰の元に走ってきたしゅうじとふみや。
「うん。上手に描けているね」
「「えへへー」」
褒めながら頭を撫でると二人は顔を見合わせて笑い合った。それにつられて自分も笑っていたなど、太宰は知る由もない。
それからは疲れたのか。
太宰の膝に座りたいと再びおねだりをしてきた二人の願いを叶えてやると、直ぐに眠りこけてしまった。
「眠ってしまったようですわね」
「そのようだね」
二人を器用に支えながら手元の書類を扱い始める太宰。
その姿に、と云うよりも仕事をし始めた太宰に感激した国木田自らが淹れたお茶を時折啜りながら、太宰は机に積んでいた仕事をこなしはじめたのだった。
それから数時間ーーー
日も傾いて夜が訪れようとした時だった。
「邪魔するぜ」
「「「「!?」」」」
探偵社の入口を開けて入室してきた人物に、数人が身構えた。
現れたのは休戦中とは云えど敵対組織に所属している人物ーーー
「なっ……!貴様はっ!」
「そう大声出すなって。争いに来たんじゃねえよ」
国木田に対してヒラリと手を振ってそう云った人物、ことポートマフィアの幹部を務めている中原中也は迷わずに太宰の方へ歩み寄っていった。
「思ったより早かったね素敵帽子君」
「あんまり遅くなるとチビ達が腹空かせるからな。あ、此れは世話代だ。皆で食ってくれ」
「おお!◯◯のお饅頭!君、矢っ張りセンスあるね!」
そんな張り詰めた空気を破って話し掛けた乱歩は、中也が差し出した紙袋を何の躊躇いもなく受け取って中にあった箱のビリビリと包装紙を破き、早速中身を食べ始めた。
それを見て、他の人達も警戒をとく。
乱歩が独占することを想定していたのか、紙袋の中にまだ未開封の箱が入っていることに気付いてナオミと春野が全員に配り始めた。
その光景を笑ってみたあと、中也は太宰の膝の上に視線を移した。
「あー寝ちまったか」
「沢山遊んでもらってたからね」
「そうか」
子供達のことだけ言葉を交わすと中也は太宰の膝から子供二人を担ぎ上げた。
その動作のせいで二人同時に「んぅ?」と声をあげながらゆっくりと目を開ける。