第4章 一寸混ざった、世界のお話
「何かされているかもしれないが、何もされてないかもしれない……それでも訊くかい?」
狸の後ろで尻尾がゆらりと怪しく揺れる。
「当たり前だ。まだ先刻の取引が生きてるなら名前でいいかァ?」
「名前は、ね。うん。後で君の口から訊くとしよう
」
狸はあからさまに、はぁーと溜め息をつく。
そして、
「あ?何呆れた顔してンだよ」
「………君は変わらないね、本当に」
「……はぁ?」
何かを思い出したのか、少し悲しそうな笑顔を浮かべると狸は中也の部下2名に向かって手を向けた。
現れたのは先ほどと同じ青白い炎ーーー
その炎が2名を包んだ。
「!?」
しかし、2名には見えていないし、何も感じないのだろう。
慌てた顔をした中也を見て頭に「?」を浮かべている。
「熱くない、のか?」
「対魔の炎だからね。先刻の餓鬼が燃え尽きたら消えるでしょ」
「……そうか」
その言葉で安堵したと同時に、包んでいた青の炎が消える。
「あ、おい?!」
それと同時に、中也の後ろにいた狸も溶けるように消えてしまったのだったーーー
「「中也さん……?」」
「……消えやがった」
「「?」」
「何でもねェ。行くぞ」
と云い、中也はその部屋を後にした。
ーーーー
不審な物音や気配などすっかり消え失せた廊下を歩き、先程通された居間へと戻ってきた中也一行。
そんなに時間は経っていないと思っていたが、
「いやー良い商談ができたよ」
「此方こそ有難うございます」
居間の扉の前で握手する二人を見て、商談が成立する程度には時間が経っていたことに驚く中也。
そんな中也に気付いた××は、鏡を見せびらかすようにして軽く会釈し、足早にその場を去っていった。
その背中には、先ほど見た『餓鬼』と云う生き物ーー
何だァ?先刻より大きくなってねぇか??
そう思うも、口にはしなかった中也。
そこに、
「あの鏡のお陰でとても良い取引が成立しました!」
そう云いながら、◯◯は契約書を中也に渡す。
それを受け取り、確認する中也。
ーーー確かに、かなりの好条件だ。ウチにとっても悪くねえ……そうまでしても欲しい鏡だったのか?
「俺達もそろそろお暇するぜ」
「お気をつけてお帰りくださいませ」
契約書を返却し、中也達も帰路に着くのであった。