第4章 一寸混ざった、世界のお話
「……まだ何か居るんですか?」
中也の呟きに部下その1が問い掛けた。
しかし、中也は答えを持ち合わせていないため再び後ろを振り返る。
「………。」
「………。」
何が云いたいのか判っている様だが、狐は中也を見つめ返すだけなため無言が続いた。
「……早く教えろよ」
痺れを切らした中也がそう云うと、狐はピコピコと耳を動かした。
「何をだい?」
知ってるくせに、等と云い返して先程と同じように姿を消される可能性もゼロではないため中也は小さく溜め息をついて口を開いた。
「あの野郎の背中に貼り付いてた黒いヤツだよ」
この部屋に来たときには無かった何かが、××の背中にピッタリと引っ付いていたのだ。
「餓鬼だよ」
「……あ?ガキ?」
「『餓えた鬼』と君達の言語では表記されることが多い奴等だよ。先刻其処の人間を襲っていた奴等と同じ」
「大分、姿が違うじゃねえか」
「餓鬼は種類が多いからねえ」
「そうなのか」
鬼と云うものを視たことは無いが、鏡から伸びていた手の主も同じ様に気色悪かったなと納得する中也。
「何で彼奴の背中に貼り付いてたンだよ?」
「宿主として丁度良い人間だったから」
「……宿主?」
「人間がよく云う云い方をするならば『取り憑いている』ってこと」
「!」
その言葉を聞いて、中也は『姿を消されたくない』理由を思い出した。
「そうだ!おい!コイツ等にその餓鬼とやらが口から何か入れてるように視えたンだよ!」
「「えぇ!?」」
見えない何かとずっと話している上司を心配しつつも自分達のことを突然云われて驚く二人。
そんな二人をジーっとみて、中也に視線を戻す狐。
「ふむ。それで?」
「大丈夫なのかよ」
「『大丈夫』……ねぇ」
狐はクスクスと愉しそうに笑うだけでそれ以上、話さない。
「………具体的に質問しなきゃ答える気はねえのかよ」
しびれを切らした中也がぼやくと狐はニッコリと笑った。
「そうだねぇ。そもそも何で私が易々と力を貸すと思っているんだい?」
「……。」
確かに、と思わざるを得なかった。
自分達の世界ですら基本は等価交換だ。手を借りるには大小なりとも何かを支払うーーー
「ーーー何が望みだ」
「「!?」」
中也の言葉に、部下たちは心配そうな顔を向けた。