第4章 一寸混ざった、世界のお話
「中原ちゅっ!?」
勿論、『中原中也』と叫ぶつもりだった。
ーーーそれをモフモフしたものが口を覆うかたちで遮ったのだ。
『やれやれ』
ハッキリと声が聞こえたと同時に、青い炎が部下達を。
否、部下達を締め付けていたモノ達を包んだ。
ピギャアァアァ………!!!
聞いたことのない悲鳴が消えた後、部下達は激しく呼吸し始めた。
部下達を苦しめていたものが燃えて消えたのだろう。
その部下達に中也は歩み寄ろうとした、が。
鏡からは新たに手が伸び出てきていた。
「またかよっ!?」
中也がそう云った時だった。
「っ!手前……」
ーーー背後にハッキリと気配を感じた。
背後に現れたモノは先程遇った時とは明らかに違った。
中也の口をこれで覆ったであろう立派な尻尾が九本生えている。
勿論、耳も人間のものとは異なる。
ソレは中也ではなく鏡を睨み付け、口を開いた。
「消されたくなければーーー還れ」
たった一言。
機嫌の悪い時の太宰と同じ声音だな、と思った一瞬の出来事だった。
「あっ、電気が付いた!?」
鏡から出てこようとしていたモノが奥に引っ込み、途端にこの部屋の空気が明らかに軽くなり、先程まで真っ暗だった部屋に灯りが点った。
部下達が「中也さーーん!」と近寄ってきたため宥める中也。
そして、後ろを振り返った。
「……お陰で助かった。ありがとよ」
「「??」」
部下達の反応から、自分にしか視えていないことは知っていたが中也は構わずに続けた。
その様子を少しみてから、ソレは尻尾をゆらゆらさせながら返事をした。
「こんな魑魅魍魎が跋扈する空間で名乗ろうなんて無茶するねえ」
「手前なら『視てる』と思ったからな」
その返答に、ソレ……太宰にそっくりな姿をした九尾の狐はやれやれと笑った。
「あの鏡、何とかなんねえのかよ」
「何とかってなんだい?」
「また、あんなのが出てきちャあ敵わねえ。此方から触れもしない敵なんて二度と御免だ」
「ふーん」
九尾の狐は中也から鏡に視線を移す。
「アレは只の道に過ぎない」
「道?」
「まぁ、陰陽師あたりに閉じさせればいいんじゃないかい?」
「陰陽師だァ?」
「……あの、中也さん?」
何もない空間に向かって話している上司に、漸く部下が口を挟んだ。