第4章 一寸混ざった、世界のお話
「あ……?」
招かれるままに玄関に着た瞬間に、突然襲われた何かに足を止める中也。
「………俺は、」
「ほら。おいで」
先に行く太宰?に置いていかれないように慌てて玄関を上がる。
長い廊下を歩く度に、『既視感』を覚える。
俺は……此処に来たことがある……?
否、そんなわけ……
「此処で少し待ち給え。御茶を用意してくるから」
「……ああ」
落ち着かない様子で部屋を見渡す。
部屋の造りも。部屋から望む庭の風景も。微かに香るお香の匂いも。
確認すればするほどに、此処を知っているという認識を強めていく。
程なくして戻ってきた太宰?の出してきた御茶を口にしながら中也は数ある疑問を1つずつ訊ねようとした時だった。
「また随分と珍しいものをナカに飼っているねえ」
「!?」
ピクッと反応する中也に、太宰?は苦笑した。
「気にしていたかな?悪いことを云ったね」
「……いや、それはいいが……てか、名前なんだよ。話すにも話辛ェ」
「名前?そんなの君の好きに呼ぶと云い」
「じゃあ狸」
「ふふふ。狐と知っていて狸だなんて。まあいいよ。それで?何を話したいんだい?」
湯呑みを置いて話を進める狸に、中也も湯呑みを置いた。
「お前が太宰の云っていた『九尾の狐』とやらか?」
「さあ?君の云う太宰が誰を指すか判りかねるけれど、私がヒトに九尾の狐と呼ばれている存在なのは間違いないねえ」
本当は太宰の事を判ってるだろうな、等と云わずに中也は続ける。
「此処は何処だ」
「私の住処」
「妖怪の世界ッてことかよ」
「まあ、君が普段住んでいる世界ではないね」
「なんで俺は此処を知ってる?此処だけじゃねえ。森も………先刻みた狐も。手前や森で聴こえた声の奴も俺を知ってるみたいだった」
ふむ、と少し考えて。
「君の魂が憶えていたのだろうねえ」
「………矢っ張り、俺と知り合いなのかよ」
「そうとも云えるし、違うとも云える」
ニコッと笑って云う狸(仮名)の顔を見て、これ以上は無駄だなと中也は小さな息を吐いた。
そして、本題に入ろうと懐から写真を取り出して狸に渡した。
「この写真の鏡について知りたい」
「ふむ」
狸は一目だけ見て直ぐに写真を返すと、成る程ねと小さく呟いた。