第4章 一寸混ざった、世界のお話
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中也は家の敷地を出て森の方へ居た。
先程と違い、中也にだけ聴こえていたらしい謎の声も一切なく敷地の境である外壁も見える。
それから暫く散策していると、ぽっかりと開けた場所に出た。
敷地の方を見ると、外壁もはっきり見えるほど樹が一本も生えていない。
「この辺りか」
草だけが広がる場所。しかし、結構広い範囲で土が剥き出しになっていることからも此処に「社のようなモノ」があったことが推測できる。
中也はその土の部分に近寄るべく歩みを進めた。
その時だったーーー。
「!?」
サァ……と風が駆け抜けたと同時に「何か」が変わった気がした。
一歩も動かずに周囲の様子を確認するべく、辺りを見渡す。
そして、
「!」
何かに気付いて目を凝らす中也。
一歩踏み入れた足から、それぞれ数米離れた両端に石のようなものが顔を出している。片方は、外壁のほんの少し手前の位置だ。
此処を平地にした際に一緒に壊されたのだろうか。
しかし、辺りに転がる石ころとは明らかに違う……石の柱のようなものが地面から十糎程顔を出していた。
「なんだ、ありャあ……」
思わず呟いた独り言。
返ってくる筈のない疑問に、
『結界柱だよ』
「!?」
先程と同じ声が、返事をしてきたのだった。
声の主を探すべく中也は気配を探るが全く判らない。
『其処は境目だから。もう一歩、此方へおいで』
此方…。
どっちだよ、等と思わずに。中也は両端の石の塊を見てからもう一歩、更地の方へ足を踏み出した。
先程と同じ様に風が吹き抜けていき、中也は思わず目を伏せる。
その間、僅か数秒ーーー。
「なっ!?」
しかし、その数秒で中也の前には立派な屋敷。
足元を見ると石畳。
そして、
「これはこれは…皆が騒ぐ訳だ」
「!?」
クスクスと笑いながら近付いてくる気配に、声に。
中也はバッと振り返る。
森を彷徨う前に聞いた声。
一歩踏み出すように指示してきた声。
聞いたことのある声だとは思っていたがーー
「太宰…?」
振り返った先は森一色だった筈。
それなのに何時の間に大きな鳥居が現れたのか。
否、そんな疑問よりも何よりも。
笑顔で近付いてくる者が自分の嘗ての相棒であることへの疑問の方が勝った中也は、思わずその名を口にした。