第1章 一寸先の、宝物のお話
太宰は自席に着くと膝の上にしゅうじを座らせる。
其れを見て、ふみやも走って行く。
「おれもぱぱのひざにのりたい!」
「いいよ。おいで」
そう云ってひょいとふみやを持ち上げてもう片方の膝に乗せる。
太宰は自分の机の上から万年筆を取ると、それをしゅうじに差し出した。
しゅうじは不安そうに太宰の顔を見上げる。
「……きえちゃわない?」
「大丈夫。消えないよ」
そう云いながらしゅうじの頭を撫でる。同じ様にふみやの頭も撫でてやると漸くしゅうじが笑顔になった。
「しゅう、げんきになった?」
「うん!ふーくん、おえかきしよ!」
「おう!」
ふみやの手を取って太宰の膝からピョンと飛び降りると、二人揃ってソファに座ってお絵描きを始めた。
そんな二人を暫く見た後、太宰は懐から通信端末を取り出した。
「連絡つかないような状況だから此所に来てるんじゃないのー?」
「そうですよね」
ラムネを飲みながら云う乱歩の言葉に苦笑すると端末を机に置いた。
「お前に女の身内が居たなんてね。しかもマフィアに」
「………片割れなんです」
「えっ!双子!?」
乱歩が思わず大声をあげると、子供達が顔を見合わせて大きく頷いた。
「まあ!そうでしたか!」
「確かに似ていると云えば似ているねェ」
自分達の事を云われていると思った子供達と、その面倒を見ていた大人達が賑やかに話し始める。
「だから疑っていたのか、いや……まだ疑っていると」
「ええ……」
「だけどお前の子供じゃなきゃ『色鉛筆』が消えるわけないだろ」
「……。」
太宰が無言になる。
その様子から新たな推測が乱歩の脳内を駆け巡った。
「……真逆、お前の片割れも異能者か?」
「仰る通りです」
異能が関わることまでは幾ら乱歩が慧眼の持ち主と云えど完璧には読めない。
太宰が子供の事を素直に受け止められない理由が、唯一推理することが難しい『異能』であることを瞬時に弾き出した。
はぁ……。
どんな異能を太宰の片割れが有しているのかをハッキリと読めない以上、溜め息をついて色々考えている太宰に、乱歩もそれ以上は何も云わなかった。