第4章 一寸混ざった、世界のお話
ーーー
嫌いな「元相棒」のことを思い出したのか。
うんざりしている顔の中也が話し出すのを、黙ってみている部下2人。
その時間が1分経つか経たないか程で漸く中也は口を開いた。
「九尾の狐を何度も視たことがあるらしい」
「「……。」」
九尾の狐なんて、等。
冗談で云っている風ではない上司に向かって、幾つかの怪奇現象を体験した部下達は否定するような言葉を云えるわけがなかった。
中也は、元相棒が何度も視たという『九尾の狐』の話を思い出してしまった通りに詳しくする訳でもなく、何か別の事を思い出したようにハッとして、それから懐に入れていた写真を取り出した。
「そうだ。手前等、コレ見てみろ」
「「?」」
部下其の1が代表で写真を受け取り、2人で見つめる。
「何か視えるか?」
「……楕円形の何かが写っていますが」
それ以外、何も写っていないが上司には他にも写っているように見えているかもしれないと思うと無意識に恐る恐る答えてしまった部下。
「その楕円形の中だよ。何か見えるか?」
「えっ……中ですか?」
指摘された場所をジッと見詰める2人。
しかし、楕円形の中は鈍色一色で何も写っていない。
「楕円形の中は何もないですけど……」
そう云うと、中也は手を差し出す。
その意図を汲み取って写真を返すと、中也は写真を目上に掲げながら眉間に皺を寄せた。
「俺には『小さい手が無数に張り付いてる』ように視えンだけどさァ」
「「……。」」
狐みたいな獣の手じゃねえな~等と続ける中也に返す言葉が見つからずにいると客室の入り口が開いた。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
○○氏と共に入室してきた給仕の者が紅茶と茶請けの準備を始める。
「例の鏡を持ってこようとしたのですが、一寸見付からないようでして今暫くお待ちいただければと思います」
自分で置いておいて見付からないなんて、等と突っ込む者は居らず、少しして○○氏は小さく安堵の息を漏らす。
鏡の話や、この別荘で起こる怪奇現象の話を少しした時、ふと思い出したことを中也は口にする。
「壊した社って云うのはどの辺に在ったんだ?」
「それなら、先程の抜けてきた森と敷地の境なのですが今となっては正確な位置は…」
その返答を聞いて中也はスッと立ち上がった。