第4章 一寸混ざった、世界のお話
その行動に納得がいかない……というより、自分の上司を招きながら歩かせることに疑問を抱いた部下其の1が意を決して口を開いた。
「あの。車道があるんですから車で行くことはできないんでしょうか」
「……そうしたいのは山々なんですが……その……いつ館に辿り着けるか分かりませんし……」
「「……は?」」
納得のいく回答出なかったことに、思わず声を出す部下達に、中也は小さく息を吐いた。
「お前達、一寸、車で行ってみろ」
「はい」
部下二人は車に乗り込むと、 別荘に続いているだろう道を車で走っていった。
「此所から僅かに見えてるッてことは、道も複雑じゃねえだろうし、そんなに掛かンねえだろ?」
「……道は一本ですが………」
「先刻から煮えきれねェ返事ばかりだな」
「信じてもらえるかわかりませんが……車では殆ど辿り着けないんです」
「……。」
○○氏の言葉を聞いて、中也は眉間にシワを寄せる。
「あのっ………ホントなんです!」
「……ああ」
中也は、的を得ない○○の話で眉間にシワを寄せたわけではなかった。
徐々に近づいてくる聴こえてくる、聞き慣れたエンジン音ーーー。
その音は、車が向かった方向からではなく『自分達が今しがたきた方向から』音がするのだ。
「………成る程。『辿り着けるか分からねえ』、か」
真っ直ぐ走ったはずなのに元の場所に戻ってきた部下達は、先程の場所に車を停止させると中也に近寄ってきた。
「「……申し訳ありませんでした」」
「まァ、実際に体験しなけりャあ信じがたいわな」
それでは、と○○氏と運転手は森の入り口へと進んでいった。
それに中也は続く。
そして、森に一歩踏み入れた時だった。
『還ってきた』
「あ?」
突如聴こえた声に、中也は足を止めて辺りを見渡した。
「中也さん?」
「如何かされましたか?」
「今、声がしただろ?」
「「え……?」」
中也の言葉で、前を歩いていた○○氏と運転手。
部下二人も歩みを止めた。
「じっ……冗談は止してくださいよ。何も聴こえてないし、誰も何も云ったりしていませんよ」
「………。」
部下が乾いた笑いを交えながら中也に返答する。
しかし、部下も分かっている。中也が仕事相手が居る時に冗談を云うような人間ではないということを。