第3章 一寸先の、未来のお話
男の顔が青から白に為る。
「おいおい、未だ何もしてねェっつーのに随分小せぇ精神してんなァ?」
小刻みに震えている男を愉快に揶揄っていると叩敲もなしに部屋に男達が入ってくる。
先刻の連絡で掛け付けた拷問部隊の者だろう。
「おい、叩敲くらいしろよ」
「はっ、済みま……!」
男達が中也の声にビクッとするが、チラッと扉の方を見た事に気付く。
そして、間髪いれずに一人の人間がスルリと部屋に入室してきた。
「私の部屋なのに別の誰かの許可が必要だったのかい?」
「「……。」」
フワリと笑いながら云ったその人物を見て、椅子に拘束されていた人物は眼を見開き、中也は目を伏せた。
そして、膝を床に付いて最上位の敬礼を行う。
それに合わせて入室してきた男達も同じ行動を取る。
「!?」
その様に偽首領は限界まで目を見開いて驚いた。
「申し訳ありません。首領がご一緒だと知らずにとんだ失言を」
「ふふっ、良いよ。頭を上げて『中也』」
そう云われると中也はスッと立ち上がり首領の隣に立つ。名前を呼ばれなかった男達は敬礼をしたままだ。
その一部始終を見て口を開けて固まっている偽首領に、本物の首領が顔を向けた。
「やぁ、こんにちは」
「う…噂通り……女の………?」
「うふふ。『噂』ねぇ」
笑顔を絶やさずに話すが、一瞬だけ目が鋭くなる。
それに気付いたのは隣に立つ男だけだ。
「このまま私が『お話』しても良いんだけど」
「目を通して頂きたい書類が控えておりますのでその者の処遇は彼等にお任せ下さい」
「そう。残念だ」
嗚呼、君達も顔を上げーーー
そう首領が云った時だった。
パァン!!
「「!?」」
銃声が1つ鳴り響いた。
床に膝を着いていた男達は弾かれたように立ち上がる。
ハー……ハー……と偽首領は荒い息を吐く。
隠し持っていたらしい小型銃からは硝煙が立ち登っている。
ーーー銃弾は正確に首領の心臓に飛んできていた。
「良い腕してる。処分するの勿体無いなぁ」
「ご冗談を」
「は……?ぐぁっ……!?」
そんな首領の胸元の前に出された中也の掌に受け止められた銃弾は、同じスピードで男の手元に戻り、拳銃を弾き落とした。
「連れていけ」
中也の声で控えていた部下が偽首領を椅子ごと部屋から運び出した。