第3章 一寸先の、未来のお話
ポートマフィア首領室ーーー
「失礼します」
脱帽し、叩敲をしてから中原中也はその部屋の扉を開けた。
入ってすぐに首領が座っている机が目に入る間取り。
しかし、流石マフィアの首領部屋と云うところか。
広い。
「首領、資料と報告書をお持ちしまーー」
其処まで云って中也は首領の座っている机に向かってゆっくりと歩み寄っていき、言葉を止めた。
「……。」
「……。」
首領と目が合う。
口にはガムテープ。
手足には拘束具。
バサバサの髪の毛をだらしなくさせているから、部屋の広さと相まって顔がはっきり見えなかった。
……よく見ればクオリティの高いウィッグだ。
明らかに偽物。
首領が偽物と入れ替わっている。
一大事……と云うより緊急事態どころではないのだが中也は慌てなかった。代わりに溜め息を1つ吐くと偽物の口のガムテープをベリッと外した。
「中原幹部………!」
「首領は?」
「申し訳ありません。存じ上げません」
中也は書類を机に置いて部屋の様子を窺う。
「質問を変える。手前は何処で拉致られてこんなことになってんだ?」
「自分は首領に呼び出されました」
「その時、首領は」
「既に御不在でした」
「じゃあ手前ェ、誰にヤられたんだ?」
「入室して直ぐに背後から襲われたので顔は見ておりません」
「何時頃の話だ?」
「時計がありませんので正確な時間は判りかねますが10分程前です」
「そうか」
一通り訊きたいことを聞き終えたのだろう。
中也は懐から端末を取り出すと何処かに連絡を始めた。
「姐さん?電話で悪いんですけど拷問部隊を貸してもらえます?それと迎えを首領室まで」
「!?」
中也の言葉に男の顔が青褪める。
少し言葉を交わした後に通信を切った中也に向かって男は恐る恐る口を開いた。
「中原幹部……!自分は決して嘘など付いておりません!」
「そうだなァ。今の会話で嘘は付いてねェようだな」
「……?では何故、拷問部隊を……?」
偽首領は中也の返しに一瞬だけポカンとして、訊きたいことを問う。
「俺の事すら『中原幹部』と呼ぶような下っ端の手前如きを首領が一用事で呼び出すわけ無ェンだよ」
「!?」
「逆に云えば呼ばれた時点で何かあるーーーそれを吐いて貰うだけだ」
中也はニヤァと真っ黒な笑みを浮かべ、云った。