第3章 一寸先の、未来のお話
「ただいま戻りましたー」
「戻りました」
そう云いながら敦と鏡花は武装探偵社の扉を開いた。
バキッ、ゴキッ。
「あ、おかえりー」
「おかえりなさーい」
顔は苦笑しながらも敦たちに気付いて谷崎と、特に何事もなく元気よく挨拶をする賢治。
その背後では何やら怒号と何かの音が響いている。
「太宰……貴様と云うやつは~~~~!!」
「ギブッ、…ギブ!流石に折れるッ……!!」
グエッと悲鳴を上げている男と、その男を締め上げている男のやり取りを見て、谷崎が苦笑していた理由を瞬時に悟った敦は呆れた顔をした。
「太宰さん………また『社長』に怒られてるんですか」
「良いところに敦君ッ!助けッ……!」
敦に気付いた太宰が必死に手を伸ばしてきたが、
メキョっという不思議な音と共に太宰はその場にしなっと倒れたのだった。
「帰ったか敦」
「はい」
塵を扱った後のように手をパンパンと叩いた後に敦に声を掛ける男。
武装探偵社の社長ーーー国木田独歩だ。
「その様子じゃ収穫無しか」
「済みません」
「否、いい。責めている訳じゃない」
月日は『組合』と呼ばれる連中との大規模な戦争や、1冊の本を争奪する戦争が勃発してから約5年が経っていた。
その間に様々な事が起きたが一番大きな出来事と云えば『代替わり』だと敦は思った。
2年程前に前任の福沢は国木田に社長の座を譲渡した。
死亡した訳でも病で床に伏せたわけでもない。
『次の世代に』
それだけを云い、隠居を宣言した。
突然のことだった。
しかし、然して混乱する事なく今に至る。
国木田の真面目過ぎる性格と人柄の為すところだろう。
「あいたたたた………酷いよ国木田君。社長室から出てきたと思えば肩慣らしと云わんばかり私を攻撃するんだから」
「どうせソファで寝てたんでしょ」
回想していたところで黒いモノがゆらりと敦の前に現れた。
締め上げられていた太宰だった。
そんな太宰に呆れた顔を崩さずにそう云うとパアッと明るい笑顔を浮かべる太宰。
「おお!敦君!遂に君も乱歩さんの『超推理』が使えるようになったんだね!」
否、誰でも判りますよ!
そう突っ込もうとしたところに不機嫌を隠さない声が乱入してきた。
「太宰ーそれ、本気で云ってるー?」
「「「乱歩さん」」」