第1章 一寸先の、宝物のお話
暫く会話を続け、ナオミと春野に勧められてお茶請けとしてあった煎餅をソファに座って行儀良く食べる二人。
しかし、しゅうじはまだ警戒しているのか、はたまた極度の人見知りなのか。ふみやの服をしっかり握ってピッタリ引っ付いており、ふみやが煎餅を割ってしゅうじの口元に運んで、其れを…と云うよりそれだけを食べている。
「仲睦まじい兄弟ですわね」
「行儀もいいじャあないか。本当に太宰の子かい?」
そんな光景を微笑ましく見守っていると、再び探偵社の入口の扉が開いた。
「たっだいま~」
「「「「!」」」」
軽い感じの挨拶を述べ、這入ってきた人物を誰もが見やる。
そして、誰よりも早く動いたのはーーー
「「ぱぱ!!!」」
しゅうじとふみやだった。
ぽふっ、と太宰の脚に抱き着く二人。
「………え。」
其れをゆっくりと見て、太宰は素っ頓狂な声を発した。
しかし、子供達は額を脚に擦り付けながら「ぱぱ」を連呼している。
太宰が自分の脚にしがみつく子供から壊れた錻の玩具のようにギギギ…と顔をあげて、近くにいて一番に目のあった敦に説明を求めた。
「此れは一体、如何いう?」
「つい先刻、とても美人な女性が太宰さんの子ですって預けていかれまして」
「私の子?そんな真逆!」
そう太宰が云った途端に国木田が「この不貞者が」と怒鳴り始めた。
それを宥めながら太宰は再び、子供に視線を移した。
「一寸、国木田君。落ち着き給え!幾ら女性と関係があったとしても私に子なんてーーー……」
そう云ったと同時に、子供達が。
しゅうじとふみやが顔をあげて太宰を見ていた。
「ーーーーっ!!!」
漸く子供達の顔をまともに見て、太宰は購い物袋を持っていた手の力を抜いてしまったーーー否。手の力が抜けてしまった。
「あ!」
購い物袋を持っていた手の方に居たふみやが気付いて声をあげる。
それと同時に、袋に手を延ばした。
「「「「「!?」」」」」
ラムネの瓶が数本入ったその購い物袋は、地面に落下することなく止まり、ふみやが腕を広げるとフワリと浮いてその中にすっぽり納まったのだった。