第1章 一寸先の、宝物のお話
「太宰の子供だと!?」
未だにウロウロしている子供を見ながら国木田は敦の報告に大声をあげた。
「まァ、確かにそっくりだねェ」
与謝野の言葉に思わず敦と谷崎が頷く。
二人の内一人は太宰をそのまま小さくしたような子供だ。もう一人も、目の色は違うが髪の毛質や色は同じのようである。
更に制服のような格好をしていることから何処かの園に通っているのだろう。
「あの子達が着ている制服って有名な私立の幼稚園のものではなかったかしら」
「それならある程度の教育がされてるンじャないかな」
谷崎兄妹がそういうと、敦が子供の前に屈んだ。
突然、目線を合わせられたことに驚いたのか。
太宰にそっくりな子供は、もう一人の子供の背に隠れて洋服をギュッと握り締める。
もう一人の子供も、その子供を守るように手を広げて敦をキッと睨み付けた。
「大丈夫、怖くないよ」
「……。」
ニコッと笑いながら敦が話し掛けると、守るように立っていた子供は手をおろした。後ろの子供は顔を見せる気もないらしく背中に顔を埋めたままだ。
あれ?この子も誰かに似てるようなーーー……
「ぱぱはどこ?」
敦が思い出そうと考えていると漸く子供が声を発した。
「えっと…君達のぱぱって誰かな?」
「「……。」」
敦の言葉に子供が黙り込む。
その表情もどこか泣きそうで敦はあたふたとし始める。
「坊やたちお名前は云えますか?」
そこにナオミと春野が間に入って話し掛けた。
「……おとなになまえおしえるときは、さきにあいてにきくようにっていわれた」
「まあ、そうですわね!失礼しました。私はナオミ。貴方達は?」
ナオミがそう云うと、背中に隠れていた子供も半分だけ顔を表した。
それを見てから、前に立っている子供が口を開いた。
「だざい ふみや。うしろにいるのがおとうとの」
「…だざい しゅうじ」
名前だけ云うと「しゅうじ」と名乗った子供は再び「ふみや」と名乗った子供の背に隠れてしまった。
「彼の子達、太宰って云いましたね」
「云ッたねェ」
ナオミと子供達のやり取りを見ながら敦と与謝野が小声で話す。谷崎は苦笑しているが、国木田は現実に耐えられないのか今にも卒倒しそうだ。
「…ふーん」
そんな中、乱歩は誰にも気付かれずに凡てを納得した声を発したのだった。