第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話
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ぼんやりとした視界と思考。
それを醒ますように目を擦ったのは中也だった。
………。ガバッ!!
そして、一気に覚醒したと同時に状態を起こして、そろりと隣を見た。
スー……スー……
規則正しい寝息と共に夢の中に居る女と、同じ顔の男。
電気を付けっぱなしにしていたせいで今の惨状が目を伏せなければ見えてしまう程、ありありと判ってしまう。
ヤってしまった……。
過去最悪のやらかしだと、そう後悔する前に一つ隣を挟んで未だに眠りこけている男を静かに、しかし、強く叩き起こした。
「ん"ー……っ」
なかなか起きない男、太宰に中也は小声ではあるが声も出し始める。
「おいっ、太宰!起きろって!」
何回目かの声かけと揺さぶりで太宰が漸く目を覚ました。
………。ガバッ!!
そして、中也と同じように飛び起き、そろりと紬の方に目を向けた。
「あ……」
シーツについている赤いシミや、紬の身体の彼方此方に散らばっている紅い痕。
どちらも白いモノに付いているため嫌でも目につくものだった。
「……如何しよう中也」
「……如何する?太宰」
二人揃って口を開く。
やらかしてしまったのだ。盛大に。
確実に取り返しのつかないことを。
「何であの状態で紬に会いに来たりしたのさ」
「手前が心配だっつって首領の話もそこそこに此処に来たんだろうが」
「止めてよ!」
「しゃあーねーだろ!俺も心配だったんだから!」
戻れるわけないのに過去の行動についてお互いにギャーギャー云い合ってる時だった。
「五月蝿い」
不機嫌な声が二人の会話をピタリと止めさせた。
ゾワッとした冷たい何かが二人の背を掛けたせいで背筋をピンと正す。
しかし、幾ら待てどその次の句が継がれる事はなく、代わりに再び規則正しい寝息が聴こえてきた。
「……取り敢えず後処理しよう」
「……だな」
紬を起こさないように身体を清めたり、シーツを換えたり寝具を整え直したり、と。
二人はとても珍しく仕事以外の事で協力体制を取ったのだった。