第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話
ーーー
「○○は始末しました。報告は以上です。」
太宰は不機嫌を隠さずに首領に云い放った。
森の座っている机の上に置いてあるボイスレコーダー。紬が仕込んでいた○○を始末する理由とした、今回の一件の確たる証拠を渡して、その内容を聞くことなく太宰は報告をし、直ぐに立ち去ろうとする。それを中也が制した。
「おいっ、きちんと報告してねえだろーが」
「そんな事より紬が心配だもの」
「いや、気持ちは分かるが首領の前だぞ!」
「知らない。どうせ今回の事で懲りたでしょ」
「手前ッ…!」
「いいよ、中也君。今回は本当に太宰君の云う通りだからね」
二人のやり取りに苦笑しながら漸く森が口を挟んだ。
その言葉を聞いて中也が口をつぐむ。
「彼女の異能が此処まで強力だったとは私の想定外だ。否、忠告はされたんだけどねえ」
「それなのに『間諜の処分』を紬に頼んだんでしょ。僕は異能を無効化なんてしに行きませんからね。自分達で凡て復旧して下さい」
「なぁ、おい。紬の異能って結局なんなんだよ」
中也の質問に太宰は「はぁ」と息を吐くと諦めたような顔をした。
「紬の異能は『停止』だ」
「『停止』?」
「そ。触れたものの動作、または機能を『停止』させる。今回は紬が触れている地面を媒介にして、このビルの配電や人の動作を停止させたんだ」
「そんなにすげえ異能持ちだったのかよ」
「そんなわけないでしょ。此れは確実に紬の意思じゃあない。今回は身体の動きだけだったけど、もしかしたら足元の男達みたいに全員の心臓を止めてたかもしれない。紬が自分の意思ではない状態で意識を失った時のみ見られる暴走ーーー発動はできるが制御はできない。例えるならば君の『汚濁』と似たようなものさ」
「…そう、か」
始めて知る紬の異能情報を頭に入れる。
「このビル内の全システムを復旧するのにきっと半日はかかるでしょ。どうせ何も出来ないから僕は此れで失礼します」
「おい、太宰!」
「いいよ、中也君。君も今日はゆっくり休んでくれ給え。太宰君も君もーーーそろそろ限界だろう?」
「「!?」」
そう指摘されるが、どちらとも言葉は出なかった。
森はニコッと笑うと二人に退室と休暇を云い渡したのだった。