第1章 一寸先の、宝物のお話
武装探偵社ーーー。
色々な大事件も無事に解決し、多少ややこしい事件に巻き込まれることがありつつも落ち着いた日々を過ごす何時も通りの昼下がり。
「………敦。先刻まで其処に居た包帯無駄遣い装置は如何した」
「えっ!?………あれっ!?居ませんか!?」
午後3時を過ぎた探偵社で行われているのは、これまた何時も通りのやり取り。
しかし、何時も通りでないのは問われた敦も判らずに行方をくらましていたという事実。
国木田の顔が湯気がでそうな程に赤く染まり、敦が慌て始めた。
「太宰なら僕のラムネの買い出しに行かせたよ」
「「!」」
そんな二人に声を掛けたのは包帯無駄遣い装置こと太宰と同じで探偵社において自由にしている江戸川乱歩だった。
「乱歩さんの御使いならいいです。」
その言葉を聞いた途端に落ち着きを取り戻した国木田は直ぐに業務をこなすべく自分の仕事机に座った………その時だった。
カチャリ、と探偵社の扉が開く音がした。
全員の注目が其方に移ると同時だった。
小さな影が中に這入ってきた。
しかも、二つ。
「「「「!?」」」」
小さな影の正体ーーー
「「ぱぱーー??!!」」
敦の腰より少し低い子供だ。
目的の人を探しているのだろう。キョロキョロしながら事務所を走り回っている。
「なっ……!」
突然のことに驚きを隠せない国木田。敦が追い掛けようと足を動かそうとした時
「!」
まだ入口に人が立っていることに気付き、其方の方へ向かった。
「こんにちは」
「…こんにちは」
ふんわりとしたワンピースを纏った、腰まで真っ直ぐ延びた茶色の髪の女性は、敦に微笑みながら挨拶をする。敦がそれに返すと、女性は直ぐに一礼した。
「夕刻には迎えに来ますので、それまで息子の面倒を見ておくようお伝え下さい」
「へ?えっと、誰にですか?」
「勿論、彼の子達の父親にですよ」
笑顔を絶やさずに云う女性に戸惑いつつも、敦は「誰の子であるか」を訊こうと口を開いた、が。
「お分かりかと思いますが、彼等の父親は太宰治です」
「っ!?」
告げられた名を聞いて驚いた敦をよそに、
では、と伝えたいことを終えた女性は素早く立ち去っていった。
太宰の子供ーーー
その言葉だけで色々な想像が駆け巡り、敦は女性を追い掛けることができなかったのだった。