第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話
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「やぁやぁ、良く来たね太宰君」
「指名しておいてその挨拶は白々しいです」
「……ふん。相変わらず敬意も何も無い餓鬼が」
首領の指示通りに○○の元に来た紬は嫌味たらしい挨拶に、満面の笑みを浮かべながら嫌味で返した。
そして、指定された場所ーーー
今いる部屋をぐるりと見渡した。
真っ白の部屋にポツンと置かれた拘束椅子に黒服の男が三名。
そして、そんな部屋を甘ったるい臭いが充満していた。
「これが『例の薬』だよ」
早速始めたいのか、手に透明の袋にはいった何かを紬に見せながら○○は本題を切り出した。
「それを僕に服用しろと」
「そうだ。首領に云われて、いや、命令されただろう?」
ずい、と紬の目の前に差し出した袋の中身を一瞥した。
袋の中に入っていたのは少し桃色を帯びた錠剤が三つ。
紬は深いため息を吐くと、それを受け取り、一気に煽った。
「ははっ……!一つでも良いものを三つ凡て飲みやがったな、莫迦め」
「どうせ追加で摂取させる心算だったのでしょう?手間を省いただけです」
そう云うと紬は椅子に座った。
「此れで拘束されなければいけない理由が分かりかねますが説明は勿論あるんですよね?」
「勿論だとも。どうせ貴様は『壊れる』ーーー俺だけの僕になるんだから」
三人いた黒服達が直ぐに紬を拘束椅子に縛りつける。
そして、何かを取り出すと首筋に当てた。
「貴様の薬物耐性は並々ではないと聞いていてね。それはこの錠剤を更に濃縮したものだよ」
「そうですか。それで?説明をする約束ですけど」
当てられた注射針から何かを注入される不愉快さに顔をしかめながらも話を続ける。
「此れは外つ国では『楽園』と呼ばれるモノでね。性的興奮及び感度を非常に高めるものだよ」
「っ……外ツ国とのパイプは、貴方か」
体が火照るのが判る。
薬物耐性があるとしてもそれを遥かに凌ぐモノであることは確かだ、と乱れる思考を必死に動かして言葉を紡ぐ紬に、○○はニヤリと笑い「効いてきたようだな」と呟いた。