第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話
太宰と中也は『壊れた女』の実状を確認するべく店に赴き、関係者から話を聞いた。
分かったことは唯一つ。
壊れた女になった原因が、行為の前に何かを服用させられた『らしい』と云うこと。
『もっとアレを!!』
この言葉だけを繰り返し、どんな要求も受け入れてしまっている状態であるという事で、どの様なものを如何様に摂取した、或いはさせられたのかさえ不明だった。
「折角来たのに全く分からずじまいなんて本当に調査されているの?これだけの情報で首領に報告書を渡した、なんておかしな話だよ」
「だな。思ったよりも情報が無ェのに『新種の薬って線が一番』だと出た理由付けも明確じゃねーしよ」
「あーあ。僕達が此処に来て一時間ちょいくらい?完全に損したね」
「珍しく同意だ」
店を出て、数歩歩いたところで太宰がピタリと止まった。
「もしかして………既に最初から『薬』だと云うことは判っていた?」
「あ?」
ポツリと呟いた言葉に、中也はきちんと反応を示した。
「その『薬』の成分や効能が合成麻薬なのか『異能』なのか判らないだけで、既にその『薬』とやらは入手できていたとすれば………っ!?」
ガシッ
「ちょっ…!なんだよ!?いきなり!!」
太宰が中也の腕を掴み、急に走り出した。
「中也、急いで!僕の推測が正しければ紬がっ……!!!」
「!?」
突然出てきた太宰の片割れの名。
紬の名を出して笑えない冗談を云う程、太宰は紬の事を大切にしなかったことなど無いことを中也は重々知っていた。
普段から機敏に動く方でないのに全力で走り出した事にただ事ではないことを悟った中也はそれ以降、文句を云うことなく太宰に続いたのだった。