第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話
シンッ……と部屋が一瞬で静まった。
が、直ぐに紬が先程の続きと云わんばかりに口を開いた。
「それで?治が居ると話せないことを僕に頼むために任務を分けたんでしょう?」
「……理解が早くて助かるよ」
二回目となる台詞を吐いて、首領は申し訳なさそうに続けた。
「先の件で云わなかったんだけど女性を壊す方の『薬』は入手できたようなんだよね」
「随分と曖昧な云い方ですね。出来たならば梶井さんにでも渡して解析させれば良いでしょう」
「そうなんだけどね。本物か判らないから確認したいって申し出てきてるんだよ」
ふう、と息を吐きながら云う首領こと森に、紬は少し考える。
「ああ。本当はそれで姐さんがブチギレてたんですね」
「そういうこと。これ以上が自分の配下が壊される可能性を許すわけなかろうってさ」
「それで最近になって女だってことを知った『私』に白羽の矢がたった、と」
「太宰君の目が黒い内は万が一、いや億が一でも有り得ないけど、『そういう任務』をまわすことも可能性として零ではないからね」
「成る程。理由は良く分かりました」
すると紬は少し考えることができたのか口許にてを当てる。
「性別で影響するか否かを知るだけならば男に飲ませれば良いだけの筈ですけどね」
「鋭いね」
紬の言葉に森が頷く。
それを見て、紬の中で全ての合点がいった。
「そういうことですか」
「そういうことだよ。引き受けてくれるね?」
「面倒くさいです」
「まあまあそう云わずに、ね?」
そう告げられて紬はコクッと頷いた。
「分かりました。しかし、」
「何かな?」
了承したにも関わらず紬が未だ続けるため森は首を傾ける。
「未知数の薬ですから『如何なっても』知りませんからね」
失礼します、とそれだけ告げると紬は首領室を後にしたのだった。
「リンタロウ。今の如何云うこと?」
「うーん。彼等の中で抜きん出て薬物耐性もあるからある程度は大丈夫だと思って頼んだけど…太宰君の報復の話かな?」
「ダザイがこの事を知ったらリンタロウ殺されちゃうかもね」
「怖いこと云わないでよエリスちゃん~」
この時の森は、自分の指示が大きな誤りだったのだと知るよしもなかった。