第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話
太宰が食べていたものと同じものを紬にも出すと中也は珈琲を飲みながら話し掛けた。
「手前の兄貴は『条件が不公平だ』っつて駄々捏ねてたぜ」
「ちゃんと聴こえていたよ。珍しく云い負かされなかったじゃないか」
「俺が云いたいことはそう云うことじゃねえ。つーか、そんなにしょっちゅう負けてねえよ!」
「あーはいはい。わかったわかった」
「適当に返事しやがって」
「拗ねないの」
「拗ねてねえよ!」
漫才みたいなやり取りを混ぜながら食事を取る二人。
「でも、私のだす条件に関して文句は受け付けないよ?それを了承したから昨日許したんだから」
中也がグッと言葉をつまらせる。
この台詞を云われてしまえば百パーセント紬の勝利だった。
そう。
敵対しているはずの太宰との同居を許し、食事まで作るのにも理由があるのだ。
それに関して紬が云う分に不満を抱いたりはしない程に、中也は紬に惚れ込んでいる自覚はある。
しかし、それを片割れである太宰が茶々入れる事に関しては話は別だ。犬猿の仲だ、なんて生ぬるいほど仲が悪いのは二人を知っているものならば承知の事実だろう。
よって、今朝方のやり取りは仕方がないことなのだ。
そんな二人のやり取りを紬だけは昔から「また始まった」程度の軽い気持ちで傍で鑑賞していた。周りの人たちの殆どは紬の肝が据わっていると思っていたのだろうけど事実を知るものはその答えは間違えだと知っている。
二人に関する決定権を紬が一番多く握っているのだ。
故に、紬がこうだと決めてしまえば太宰と中也は従うしかない。お互いに不満があったとしても紬には逆らえないのだ。
逆らえばこの関係があっさり終わりを告げることも重々理解している。
それだけは避けなければならないた思っているのは中也だけではなく太宰も同じーーーーなので遅刻魔である太宰が文句云いながらも出勤したのはこのせいであろう。
何故こんな関係が成り立ったのかは三人しか判らないことだ。
一番三人を知っているポートマフィアの首領や姐さんですら知らない理由。
それは彼等が16歳の時にあることが切欠で始まったのだったーーー。