第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話
ああだこうだ云いながら食事を済ませ、太宰は身支度を整えると定時に間に合う時間だというのに靴を履き始める。
そんな太宰をなんだかんだ云いながらも見送るために共に玄関にいる中也は手に持っていた包を太宰に渡した。
「何これ」
「見て判ンだろ」
「いや、うん。そうだけどさ」
渡された包---こと弁当を見ながら太宰がポカンとする。
「最近は紬に作ってもらってたンだろ」
「そうだけど」
「『紬の行う家事の代行』が俺の条件だッつーだけで他意なんてねぇよ」
「…そういうところホント律儀だよねぇ」
太宰は一息はくと弁当をしっかりと握り、玄関のノブに手を掛けた。
「今日は?」
「日付が変わる前には帰る」
「そ。確り番犬しててよ」
「云われなくても分かってるッつーの」
普段ならば犬扱いされることに反論する中也が素直に太宰の言葉を飲み込む。
そう中也が云ったと同時に聴こえる物音。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
中也ではない声に見送られて
フッと笑みを浮かべた太宰は玄関を後にした。
足音が遠ざかるのを確認して中也が鍵をかける。
「ちゃんと出勤したと思う?」
先刻、中也が居た場所の後ろで壁に寄りかかっている紬が眠そうな目をこすりながら口を開く。
「手前を怒らせた後のほうが面倒だからなァ」
「ふふっ、何だいその答え」
普段より掠れている声は寝起きだからという理由だけではないことをよく知っている人物の一人である中也はヒョイっと紬を片手で担ぐ。
「ちょっ!もう少し優しく扱えないのかい?!君たちのせいで身体のあちこちが痛いというのに!」
「へいへい。次から気をつけるわ」
「…一番信用できない返事」
ムスッとする紬に苦笑しながら先程太宰が座っていた席の隣に下ろすと中也は朝食の準備をするべくキッチンへと向かった。