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【文スト】対黒・幻

第2章 一寸前の、黒が欠ける前のお話


カーテンの隙間から差し込んできた陽射しが降り注ぎ、キングサイズのベッドに寝ていた男、太宰治はうっすらと目を開けた。

「ん"ーーっ………」

そして、その事が不愉快だったことを隠しもせずに顔をしかめると直ぐに掛け布団を頭までかぶり直そうとした……

が。

「おい、起きろ。手前は仕事だろーが」

不機嫌を全面に出した声がその行動を制止する。

「……。」

その声に反応しているのかモゾモゾと動いているが、布団から出てくる気配は感じられない。
暫くその様子を見ていた声を掛けた男こと中原中也は舌打ちし、静かに口を開いた。


「……紬も起こす羽目になるぜ?」


ピタッ。

その台詞に動きを止めて、太宰は漸く布団から顔を出した。

「……卑怯者」

「ハッ。早く起きろよ」

確実に自分の言葉に従う「切り札」を使い、予想通りの行動をとった太宰に満足すると中也は一足先に寝室から出ていった。


パタンッ


控え目な音を立てて閉まった扉を暫く睨み付けていた太宰だったが、大きく息を吐くと自身の左隣に視線を移した。

すー……すー……

規則正しい寝息とともに上下する布団の塊。

左隣に在った温もりが無くなったせいか自分の方に寄ってきている人物に、起き上がる意欲を削がれる。
そっ……と頭を撫でると気持ちよかったのかフワリと笑った顔を見て太宰は再び溜め息を着いて、漸く布団から出たのだった。

リビングに出ると芳ばしい珈琲の香りが鼻を擽る。

「遅ェンだよ」

「起きる気無かったんだもの」

悪びれずにそう云った太宰に舌打ちしつつも手にしていた珈琲と焼き立てのパンを目の前に置く。

「手前が起きなくてもかまいやしねェが『飯は作った』からな」

中也も太宰の前に座り珈琲に口をつけながら云った。

「抑、この条件自体不公平じゃないか」

サクッと音を立てながらトーストを頬張り、太宰が不満を漏らす。中也が何でだよ、と声を掛ける前に再び口を開く。

「私は『早起きして仕事に行かなきゃならない』のに中也は普段どおり家事だけじゃない」

「吐かせ。俺だって手前の食事なんざ用意する義理なんざこれっぽっちも無ェつーのに手前の出勤に合わせて起床してンだよ。どう見たって俺のほうが損してるだろーが!」


ビシィ!っと指さしながら反論すると太宰はフイッと顔をそらしてモグモグと口を動かした。
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