第1章 一寸先の、宝物のお話
ゴミ箱に一体、何が。
そんな風に思いながら覗いて、直ぐに目を見開いた。
体温計似た形の何かの中央に、縦のラインが二つーーー
「陽性みたいだねぇ」
その一言にハッと息を飲む中也。
「具合が悪いせいか頭も回らくてね………如何したらよいか判らない」
紬がこのような嘘を付くはずがないことを中也はよく知っている。
何時もとは違う弱々しい声でそう云った紬に応じるために中也はベッドに腰掛けた。
「俺か、太宰の子か」
「……当たり前でしょ」
少し不機嫌になった紬の頭を優しく撫でて「悪かったって」と苦笑しながら謝る。
「手前が如何したらいいか判断できないなんてよっぽどだな。何が引っ掛かってる?」
「……。」
普段の二人からは想像もつかないほど優しい声音で中也は紬に語り掛ける。
紬が答えるまで中也も何も云わずに待った。
「……そんなに子供、好きじゃない」
「ああ」
「子育てなんてまともに出来るわけがない」
「そうかもしんねぇな」
「でも何故か………堕ろすことを考えられないんだ」
「そうか」
「………私は如何したらよい?」
「なんだよ。答え出てるじゃねえか」
「……。」
「なら良いだろ」
「良いって何が。何も解決してない」
「あ?産みたいんだろ?」
「……反対、しないの?」
紬は寝室に来てはじめて中也と目を合わせた。
中也は撫でていた手を止めて、紬にデコピンを喰らわせる。
「痛ァ!」
「大袈裟だ、莫迦」
「本当に痛かった!」
ハイハイ、と適当にあしらうも紬の腹部辺りをポンポンと優しく叩く。
「責任はとるって約束だろうが」
「!」
中也はハッキリとそう云った。
「なんだよ。そんな顔して」
「本気で云ってるのかい?」
「当たり前だろ。約束を違える気は無ェ」
「………治との子かもしれないのにかい?」
「そりゃいい。太宰への最高の嫌がらせになるな!」
中也の言葉に紬はガバリと起き上がると思いっきり抱き着いた。
「うぉっ!急に動くんじゃねえよ!」
難なく抱き止めて、背中をさすってやる中也。