第1章 一寸先の、宝物のお話
約四年前ーーー
任務を終えて首領に報告に行った中也は退室の前に引き留められた。
「紬君の体調が優れないようなのだよね」
「紬が…?珍しいですね」
兄とは違い、滅多に不調にならない
……他者の干渉避けるために異能で抑え込む人物のことだけに中也は少し驚く。同意なのか、森は一度頷くと苦笑しながら続ける。
「太宰君の事もあるしね。様子を見てきて欲しいんだ。呉々も無理しないように、と伝えてくれ給え」
「……承知しました」
頭を深々と下げ、退室すると中也は数あるセーフハウスの中でも紬が居そうである場所へと向かった。
「アタリだな」
人の気配を確認し、一発目で正解を引き当てた事に安堵すると相棒のよしみで持っている鍵で開けて家に入った。
迷わずにリビング、寝室にしている部屋へ向かう。
が、見当たらない。
入室する前までは間違いなくあった気配が、玄関が開いた時点で失せてしまっている。
中也は警戒しているのであろう人物に自分の存在を知らせる手っ取り早い方法をとることにした。
「紬ー」
様子を見に来たこと云いながら名前を呼ぶと、気配と物音が同時に現れた。
その場所が場所なだけに中也は少し慌てる。
「紬っ!?開けて大丈夫か!?」
了承する返事が小さい声でやって来ると中也はトイレの扉を開けた。
「やぁ中也……何か用かい?」
「何か用か、じゃねえだろ。顔真っ青じゃねえか」
中也は便器の前で蹲っていた紬を軽々と抱えると寝室へと運んでいった。
「吐き気があンのか」
「うん…」
症状を確認すると中也は一旦退室し、再び戻ってくる。
風呂場から取ってきた洗面器に袋を被せるとベッドの傍に置いた。
「珍しいな、体調崩すなんて」
「……私のせいじゃないからね」
中也に掛け布団を掛けて貰うと紬は楽な体勢に変え、手だけ布団から出してゴミ箱を指差した。
「そろそろ中也に連絡しようと思っていたんだよ」
「こんな状況だったンならもっと早くしろよ」
呆れながらそう云うと紬が指差した方へ歩いていった。