第1章 一寸先の、宝物のお話
「俺は唯、チビ達に『お前達の父親はもう一人居る』としか云ってねェぜ?後はチビ達の本能だろうな」
「っ!?」
その返答に太宰が驚く。
「何時の間にそんな事を」
「紬が居ない時に決まッてンだろ。父さんに会えるまでは母さんには内緒だって云っておいたからなァ」
ジトッとした眼で中也を見る紬に対してもニヤニヤした笑みを返す。
「面倒臭ェ兄妹喧嘩に四年も巻き込んでくれたんだ。少しくらい手前にも嫌がらせしたって罰は当たらねえだろ?」
「……全く」
新たにワインを注ぐと気分よく口に含む中也。
ある程度飲むとビシッと太宰を指差した。
「太宰、手前に対しては未だあるぜ?」
「……何」
中也に仕手遣られた事ーーー
否、嫌がらせという名の好意を素直に受けとれずにムスッとした声でそう云うと、中也は先程と同じように懐から折り畳まれた紙を取り出して太宰に渡した。
それを受け取り、直ぐに目を通す太宰。
「…………。」
「それは紬も加担してるからな」
「中也が思い付いたにしては最高だったからねぇ」
太宰の反応を見ながら紬もクスクスと笑った。
「苦情や嫌がらせは一切受け付けねえぜ?知っちまったンだから手前は俺を人生の先輩として敬え。なんつったってーーー手前は三年前から俺の『弟』なんだからよォ」
「……っ」
太宰の頬を涙が伝う。
中也の言葉の証明が渡された紙には書いてあった。
聡明な太宰の頭はその理由を瞬時に弾き出す。
太宰はその紙を握りしめ紬を思い切り抱き締めた。
たまに聞こえる小さい嗚咽に小さく笑って紬は兄の背中をあやすように撫で、その様子を中也も優しい笑みを浮かべて見ているのであった。