第1章 一寸先の、宝物のお話
部屋を出てリビングに行くと紬と中也は既に酒盛りを始めていた。
「チビ達は眠ったかい?」
「うん。ぐっすりね」
ふふっ、と笑いながら紬が太宰にワイングラスを渡す。
受け取ると中也がワインを注いでやった。
その手にあるボトルをみて太宰が少し目を見開く。
「……随分と良いワインを開けてるじゃないか」
注ぎ終わり、ボトルをおくと自分のグラスを持ち、差し出す。
「祝いだからな」
「っ!」
中也がそう云うと太宰の持っているグラスに紬と中也が乾杯する。
「今日、姐さんのお気に入りの娘に探偵社まで送らせたのだけど不在だったようだね」
「っ……一寸、購い出しに出ててね」
感極まって泣き出しそうになっている太宰に気付いているのか。クスクス笑いながらワインを飲む紬。
「姐さんが久しぶりに乗り気で台本まで作ってたのにな」
「え。私が居たら寸劇が始まるところだったの?」
「あァ、すっげェ修羅場になるヤツ」
「うわぁ。それは居なくてよかった」
クツクツ笑う中也に、太宰もいつもの調子が戻ってくる。
「子供達も居るのに修羅場想定なんて姐さんらしくないね」
「修治と文也に治の写真を見せたことも父親だと教えたこともないからね。勝手に喧嘩が始まった、くらいにしか捉えないだろうって云ってたな」
中也がそう云った途端に、太宰が目を見開く。
「え……?」
「「?」」
何にその様な反応をしているのかわからない中也と紬は顔を見合わせて、太宰の方を向く。
「治?如何かしたかい?」
紬の声に応じる前に昼下がりの、
修治と文也に探偵社で会った時の事を思い出すことを優先して言葉に出来ない太宰。
しかし、何度思い出してもーーー
「修治と文也は……」
「うん」
ゆっくりと口を開いた太宰を注目する二人。
「…探偵社に帰って来た私を見て直ぐに『ぱぱ』って…」
「!」
何も知らされてない筈ならば『パパ』と呼べるわけはない筈ーーー
そう続けようとしたが、目の前に然して驚きもせずにワインを口に運んでいる男と目が合い、止めた。
「中也、真逆…」
そう投げ掛けられた中也はワイングラスを置くと
ニヤリと笑った。