第1章 一寸先の、宝物のお話
ドライヤーの温風と心地よい手つきのせいか。
髪が乾く頃には修治も文也もウトウトと船を漕ぎ始める。
そんな子供達の様子に優しく微笑みながら、太宰は二人の身体をそっと押してベッドに寝せるとポンポンとリズムよく腹を叩いた。
文也は直ぐに目を閉じて寝息を立て始めるが、修治は眠気に抗う様に首を振った。
「修治?」
その行動の理由を聞くために太宰が名を呼ぶと、修治はぎゅっと太宰のシャツを握り締め、顔をあげた。
「ぱぱ………もういなくならない?」
「っ!」
泣きそうな声でそう云った修治の頭を優しく撫でる。
「ーーー勿論。だからゆっくりお休み」
その言葉に安心したのか。
修治はニコッと満面の笑みを浮かべると、力尽きたように眠りに入ったのだった。
スースーと規則正しい寝息を聞きながら暫く二人の寝顔を何も考えずにみる太宰。
私の、子供達ーーー
先程中也から渡された紙を取り出して再び見詰める。
一致、不一致だけしか載っていない情報。
年齢は三歳、もうすぐ四歳になると云っていたか。
その情報から逆算すれば、修治と文也が生まれる切欠ーーー行為は直ぐに思い出すことができた。
四年前の、三人で過ごした最期の夜ーー……
太宰が離反して直ぐに紬の動きが全く読めなくなったのもこれで理由が付く。
しかし、判ることは此処までだ。
修治と文也の生年月日や血液型、産まれた時の体重に今に至るまでの彼是。
知らなければ………。
否、知りたいことは山のようにある。
太宰は子供達の頭を優しく撫でると、音を立てないように部屋から出たのだった。