第1章 一寸先の、宝物のお話
紬が合流してから数刻も経たない内に全員で主に使用しているマンションに帰宅した。
家に帰ると直ぐに紬は修治と文也を抱えて入浴を始めた。
太宰は家に着くなり間取りを確認しているのか、どのような生活を送っているのかを知るためか凡ての部屋をみてまわる。
中也は子供達の制服を始め、自分の帽子と外套や紬の荷物を片すとキッチンに移動して調理し始めた。
「つまみと……パスタかい?」
「ああ。紬は何も食ってねェし手前も飲み足りねえだろ」
「まぁ、そうだけど…」
匂いと音に気付いたのだろう。
いつの間にか背後にきて、ひょいっと覗きこむ太宰に驚きもせず、手を止めることなく返事する。
何時ものようなーー口論に近いやり取りに発展しない中也との会話に少し戸惑っているとガチャリと扉の開く音が聴こえてきた。
「お。チビ達が上がったな。太宰、身体拭くの手伝ってやってくれ」
「あ、うん」
頼まれるままに脱衣場へ移動すると紬と目が合うーーーより先に修治が太宰に突撃してきた。
「ぱぱっ!」
おっと、と少しよろけながら素っ裸の修治を抱き留める太宰。
「こらっ!治の服が濡れてしまうだろう!?」
「あ!」
紬の声で慌てて離れようとする修治の頭を撫でて、紬からバスタオルを受け取ると太宰は優しい手つきを意識しながら修治の身体を拭き始めた。
修治は嬉しいのか、時折「うふふっ」と笑いながら大人しく太宰に従う。
「二人とも早く治と遊びたいからって身体が暖まる前に出てきてしまってね」
先に着替え終わった文也が修治が服を着るのを待っている。
「ほら文也。髪を乾かさないと!」
「へいきだもん!」
「風邪を引いてしまったら遊べなくなるから拭きなさい」
「やーだー!ぱぱとはやくあそぶのー!」
駄々をこね始めた文也に苦笑しながら、修治の服を着せ終わった太宰はドライヤーを手に取った。
「ママは怒ったらとても怖いから先に髪を乾かそうか」
「「うぅ…はぁい」」
「……怖い?」
「何でもないとも!さあ、行こう!」
太宰は慌てて二人と手を繋ぐと子供達の部屋に向かった。