第2章 ヨコハマデート日和《太宰》
幸せすぎて、どうしよう。
撤回します。
震えすぎて、どうしよう。
確かに変な兆候はあった。
普通映画館に入る前に「参考になるかなぁ?」なんて言わないよね、うん。
そして、ゾンビが襲いかかってくるパニック映画見て、真剣そうに頷く人も居ないよね、うん。
まあ、隣にいるんだけど。
待って待ってこんなグロくてホラーなの見るなんて聞いてない!
血、肉片、骨の欠片、ありとあらゆるものを飛び散らせて、ゾンビが目を光らせているのがよく見える。
震えながらもスクリーンから目を離せずにいると、不意に肩を遠慮がちに叩かれた。
ん?
反射的に隣を見ると、満面の笑みで太宰さんが前方を指差している。
暗い中でもそんな表情はよく見えたし、何ならそれに少しにやっとしちゃったし、嬉しかったけれども!
これまた反射的に前を見ると、アアアアアアアッ!耳をつんざく絶叫と共に、片腕をがじがじと容赦なくかじられてる主人公の恋人が映っていた。
何でこんなグロいの!
もう、無理。
スクリーンから逃れたいのと、一縷の好奇心とで、密かに太宰さんへと視線を移す。
酷く残念そうにため息をつきながら、私にしか聞こえないくらいの声で何やら呟いている。
「…あれは自殺の参考にならないなぁ」
あれ。
彼が指すのはスクリーンの中で断末魔よろしく叫び声をあげ続ける女の事だ。
いや。
なるわけないでしょ!?