第3章 猫目が笑う《乱歩》
「聞いてよ、危なかったんだよ?
あの子とこのナイフで刺されかけたんだ!
多分、この前浮気かなんかの依頼に来た男の逆恨みだろうね」
帰ってきた途端に土産だと言いたげにナイフを放り、ぺらぺらと喋りだす乱歩さんに、国木田さんは黙ってはいられなかったらしい。
っていうか余計なこと覚えるの嫌だとか言っといて、ちゃんと覚えてるじゃない!
「け、怪我は…」
「無いよ、この通り!」
「もう少し事情を聞きたいんですが…」
恐る恐る私と乱歩さんとを見つめる国木田さんに、乱歩さんがふるふると首を振った。
「事情なら僕が話すよ、面倒だけど。あの子は後でで良いでしょ?」
「まあ乱歩さんが言うなら…」
渋々頷いた国木田さんを横目に、乱歩さんが此方をちらりと見てくる。
いや、今心臓がキュンとしたのは、このヨーグルトもどきが甘いせいだから!
そう、それしかない!
先刻抱き合った温度を思い出したとか、全然そんなんじゃないから!
目新しすぎる記憶の中、悪戯そうな猫目が、笑っていた。