第3章 猫目が笑う《乱歩》
いつまで抱きついていただろうか。
二人の間に流れていた沈黙を先に破ったのは、乱歩さんだった。
「君、子どもみたいだね」
『乱歩さんに、言われたくないです』
何度か頭をポンポンと優しく叩かれた後、離れるのを促すように、今度は背中をポン、一度だけ叩かれた。
ゆっくりと体を離すと、まだ涙の滲む瞳に此方の様子を伺う乱歩さんが見える。
「落ち着いた?」
落ち着いたもなにも、貴方の落ち着きように私はびっくりしてるんですけど。
其れを言うのをなんとか堪えて、私は小さくはい、とだけ返事をした。
「其れじゃあ帰ろ」
ごく自然に差し出された片手に戸惑っていると、乱歩さんが実に不思議そうに問う。
「未だ怖いんじゃないの?手、震えてたけど」
いや、本当にどうしてこんなに先刻と違うの?
溢れんばかりの疑問を携えて、私はそっと片手を預ける。
満足そうに頷いた乱歩さんに引かれて、やっとの事で社に戻ってこれた。