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《文スト》こんぺいとう

第3章 猫目が笑う《乱歩》



「余計なこと覚えるの嫌なんだよね?さっさと逃げれば、さーん、にーい」



いーち。




乱歩さんがカウントし終える前に、男はそそくさとその場を去った。




ナイフを残して。



ため息をつきながらそれを拾った乱歩さんは、とんだ土産だ、そう呟きながら、私に平然と云う。



「帰ろっか」



ありがとうございましたも、ご迷惑お掛けしましたも、すべて忘れて、私は無言で頷いた。






情けないことだ。

私の両手は、震えていた。






『ら、乱歩さん』

「何?」

『何で分かったんですか、あの男が危ないって』

「えー?先刻云った通りだよ。顔つきも怪しかったし?…また説明するの面倒くさい」



付け加えるようにそう言った後、乱歩さんは不意に立ち止まった。



「えーと、どれだっけ」


ビニール袋をガサガサと漁っていると思ったら、何かを私に放った。



「君は女の子だから、ピンクね」




小さな木のヘラ付きのヨーグルトもどき。


私のために買ってくれたのか。



あの。




あんなことがあった後こういうことされると。





涙が出てくるんですけど。






突然泣き出した私を見て、乱歩さんが慌てているのが分かった。


「えぇー?いきなりどうしたの」

『めっ、目、にゴミが、入ったんです…っ!』



「ゴミかぁ」

そりゃ大変だ、何とはなしに呟きながら乱歩さんが笑う。




此処、空いてるけど?





指差されたのは、乱歩さんの胸だ。








え?こうなるの?え?どうする?
迷ってる暇はなかった。






ヨーグルトもどきを持ったまま、私はすぐさま、その背中に手を回していた。


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